【0130】民間出身国税審判官の或る日の日記(その21)

1.平成27年3月11日

副審判官は休暇で明日は午後から東大寺二月堂の籠松明見物なので、金曜日の口頭意見陳述の事前ミーティングを昨日したのだろう。
今日が休暇の副審判官だけが買っている、午前10時40分頃にやって来るヤクルトレディ(かなり年輩者であるが)に対して、審査官が「今日はいいです。」と断っていたが、もう少しマシな言い方があったかもしれない。
一度買うと無下にはできないので、自分はやはり買わないことにする。
前職の税理士法人トーマツのマネジャーからメールが返ってきたが、さすがにこの時期は結構忙しく、土曜日も出て夜は11時頃まで残業していたらしい。
そんな人に「明日、籠松明見物に行くんですわ。」と言ったら「どれだけ暇やねん。」と思われるだろう。

(補足)
税理士業界では確定申告の追い込み時期ですが、国税不服審判所は税務署・国税局とは異なる機関であり、審査請求の発生・処理状況によって繁忙になることはありますが、確定申告のような制度的な繁忙期はありませんでした。
3月12日の籠松明見物に行くというのは、税理士である以上、退官後はもはやあり得ないのかもしれません。
当時の兵庫税務署にはヤクルトレディの方が回っておられて、審判所神戸支所にも立ち寄っておられました。
その事務年度で定期的に買っていたのは副審判官1人でしたが、税務署の総務課長といった対外的な折衝や苦情処理を担当するポストに就くと、無下に断ることでトラブルを招きかねないとの思いから、こういった「お付き合い」について可能な限り対応しておくといった方もおられました。

2.審査官同士の会話

審査官2人がある国税幹部のことについて話していたが、みんなとー緒に居たいという意識(団結力?)が強い人が居て、気を遣って喫煙のその人一人を喫煙席に座席指定したところ、「俺を一人にするな!」と言って、しょうがなく吸わない人も喫煙席で座席指定したことがあったらしい。
二人とも税務大学校普通科(高卒相当)出身だったからなのか、幹部もいずれは専科(大卒相当)に埋め尽くされるな・・・とぼやいていたが、以前は普通科採用が多かったものの最近は完全に逆転しており、いずれそうなるしかないだろう。
専科は3回目くらいの転勤でやっと国税局に入れるそうで、入ったら入ったでなかなか出られないと2人は話していたが、自分の大学同期のA君は2回目の異動で局に入り、そこから東京局を含めて12年国税局に居たことになる。
審査官2人が「長期共済(年金)掛金が高い。職域加算がなくなる。」という話をしていたが。これでも料率は民間の厚生年金よりも若干低いという現実を知らないようである。
公務員の世界は、10月から(職域加算に代わる)「年金払い退職給付制度」ができて、社会保険料負担が増えるとまたその時点で驚くことになるのだろうが、すでに2年前くらいに決まっていることなのだが・・・。

(補足)
非常勤ではなく常勤で国税職員と同勤すると、こういったたわいもない会話を聞くことになりますが、「税務」という同じ分野ではあるものの立場が全く異なる組織に長年在籍している者の話は興味深いものがありました。

3.過去の裁決の評価

自分が担当する事件については、審査請求人が過去にある国税不服審判所が発出した裁決書をTAINSから入手して証拠として添付している。
審査請求人としては、「過去におたくが本件と同様の事案について自分の主張を認める裁決を出しているじゃないか?」と言いたいのだと思うが、過去に発出された裁決の全てが正しいとは限らない。

(補足)
納税者も税理士も、自分の目の前に横たわる懸案事項について、できる限り附合する裁判例・裁決事例を探し当てようとしますが、その裁判例・裁決事例が実はその後に修正されている(失敗作と評価されている)可能性まで顧慮する方は極めて少ないでしょう。
この事案は、審査請求人が証拠として添付してきたある国税不服審判所の裁決について、国税不服審判所内部で「裁決検討事績表」という取扱いが発出され、その裁決の考え方には今後依拠しないことが記載されていました。
だからといって、国税不服審判所が、その裁決について、事後になって「過去のこの裁決は誤っていました!」と積極的に公表することはなく、その裁決とは異なる方針の裁決を将来的に発出し続けることによって「あの裁決は特異なものだったのでは?」と納税者や税理士業界が気づくことを期待することしかしないのです。

昼休みに、昨日最高裁で確定した外れ馬券の経費認定の話題になった。
一般の競馬愛好家には関係のない話だが、勘違いして「わしゃこれに生活かけとんにゃ!」と申告会場でむずがるおっちゃんがこれから出ないとは限らない。
本件判決に係る裁決(平成24年11月26日)はもちろん一時所得で判断していたが、近いうちに取消判決一覧表に出てくるだろうか・・・大阪審判所の汚点になるのかな?

(補足)
国税不服審判所は、過去に発出した(原処分を維持した)裁決判断がその後の訴訟判決によって否定されると、「取消判決一覧表」を更新して注意喚起していました。
外れ馬券判決が訴訟にまで進んでいるということは、前段階で国税不服審判所が原処分を維持していたのであり、それが大阪審判所だったのです。

4.東日本大震災の犠牲者に対する黙祷

今日は税務署も半旗が揚がっており、14時46分より自席で1分間の黙祷をした。
なぜか支所長は自室ではなく部屋の外に出てきてしていた。
確かに、一昨日の幹部会では、明後日は14時46分に黙とうするようにとの閣議了解に基づく国税庁長官指示があったという連絡事項があった。
大葬時の国旗掲揚に関するルールは大正元(1912)年制定の閣令が今も生きているようである。

(補足)
8月15日も同様ですが、こういった黙祷をすべきとの指示は、「内閣府→財務省→国税庁→国税不服審判所本部→各国税不服審判所」の順に事前に指示文書が発遣されます。
公務員の行動を縛るのも大変です・・・。

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