【0129】民間出身国税審判官の退官後の再就職

1.天下りの目

例えば、事務次官等の中央官庁の主要官僚が、退官してある民間企業に就職したとすれば、一般的な国民は「天下りではないか?」と疑うでしょう。

その企業が、その官僚の所属していた官庁の監督先であれば尚更のことです。

なぜ企業がその官僚を受け入れるのかといえば、
最新の政策情報を得るためのルートとして期待したい
監督官庁から検査等があった場合に穏便に収めてほしい
といった期待があるに違いありません。

税務職員の場合には、企業に就職するというよりも、顧問税理士としてその企業が迎え入れることにより、
・判断が微妙な事案の処理方針についての情報を入手してほしい
税務調査があった場合に穏便に収めてほしい
といった期待があるに違いありません。

かつては、幹部の税務職員については、国税局の総務課が顧問をあっせんしていました。

私が公認会計士としてある上場企業の監査をしていた時に、稟議書綴に「大阪国税局から顧問税理士のあっせんがあったが受け入れて良いか」といった稟議書とともに、その職員の過去の経歴書を拝見したことがありました。

2.顧問あっせんの禁止

現在は、「国税庁職員の税理士業務に係る顧問契約等を前提とした在職中の禁止行為に関する訓令(平成22年国税庁訓令第1号)」第3条に基づき、退職後に税理士開業を予定する職員が、在職中に自ら税理士顧問契約を打診・開拓することや、現役の職員がその地位を利用して、退職予定者又は退職者のために税理士顧問契約先をあっせんすることは禁止されています。

税務職員は「先輩は恵まれていたのに自分たちは・・・」と愚痴をこぼすのですが、直接顧問あっせんされないだけで、例えば、先輩税理士が高齢になったことにより、かつてあっせんしてもらった自分の顧問先を、廃業とともに後輩に譲るといったことは普通に行われていますし、国税関係の各種団体の理事といった税務職員の天下り先は現在も一定数存在しています。

3.民間出身審判官の求職活動

以上は生粋の税務職員の話ですが、民間出身審判官は、はじめから「3年」といった任期付で任官され、退官時年齢も相対的に若く、国税不服審判所における経験をその後民間企業(税理士事務所等を含む)でどのように活用しようかといった目的で門をたたくのが通常です。

この点、民間出身審判官については、その任官中に、利害関係のない税理士事務所・公認会計士事務所・法律事務所に対する求職活動をすることは制限されていません。

私も、7月9日までという任期からの延長がないことが判明した2月下旬から就職活動を開始して、3月初旬には税理士法人チェスターとのご縁をいただいています。

4.公務員であることによる規制

ただし、民間出身審判官も常勤の公務員である以上、最低限の規制はあります。

それは、税理士法42条、弁護士法25条及び公認会計士法24条3項による規制で、要旨「現職時に担当した事件に係る関与先に就職するには一定の禁止期間がある」ということです。

例えば、税理士であれば、退職前1年以内に関与(所管)した企業につき、退職後1年間は関与することができないというもので、民間出身審判官に限らず生粋の税務職員でも同様ですので、例えば、とある税務署長で退官した職員は、退職後1年間は同署管内の企業の顧問税理士になることができないことになります。

民間出身審判官の場合には、退職前1年以内に審判官として関与した企業につき、退職後1年間は関与できないことになります。

他にも、「国家公務員法等による秘密保持」「情報管理(行政文書等の持出禁止)」のほか、在職中に再就職の約束をした(取り付けた)場合には、国家公務員法106条の23の規定に基づく「届出」を行わななければなりません。

民間企業に勤めている方が転職活動をして、その企業に退職を申し出た場合(あるいは定年退職した場合)、次の職場について伝える義務はないはずですが、国家公務員についてはそのようにはいかず、「転職して良い(利害関係のない)企業か否か」のチェックを受ける必要がある点が大きく異なるといえるでしょう。

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