【0114】民間出身国税審判官の或る日の日記(その13)

1.平成27年〇月〇日

朝の始業前に総括審判官などと「経済格差は教育格差につながる」みたいな話をした。
平成27年度当初予算案の確定に伴い国税庁の定員も確定したということだが、増員992人に対して合理化による減員1,057人を差引きし、純減65人、合計55,725人となった。
でも、審判所で増員は難しいだろうから、純減影響しかないのかもしれない。
プレスリリースはされていないが、人件費予算は567,569百万円であり、1人あたり人件費は10,185,177円となる。
もちろん法定福利費を含んでいるはずだが、やはり高い。

(補足)
国家公務員の定員削減については「【0054】国家公務員の定員削減(https://www.trusty-board.jp/blog/1748/)」をご参照ください。
上記の人件費予算は法定福利費のほか退職手当も含んでおり、現在の年齢別構成は大量採用時のベテラン世代(50歳台)の比重が高いためか、定年を迎える職員の退職手当の負担が重く圧し掛かっている傾向があります。
しかし、その影響を考慮したとしても、国税職員は他の国家一般職公務員に比して俸給水準が高く、1人当たり人件費も大きくなる傾向にあります。
詳しくは、「【0078】税務職員の他の国家公務員との給与水準の違い(https://www.trusty-board.jp/blog/2123/)」をご参照ください。

2.部長審判官会議

過去の部長審判官会議の議事録を見たが、興味深い議論もあった。
本部の幹部からは、
「この少ない件数では審判所の機構定員が維持できない。原処分庁に対しては躊躇なく処分するよう国税局長会議で話している。」
というコメントがあったが、処分をされた納税者が、処分を受けることによって、いかに資金的、労力的、そして精神的負担を負っているかということをわかっていない自らの組織の維持を目的とした発言のようにも思われた。

(補足)
審査請求件数のカウントについては「【0034】審査請求件数のからくり(https://www.trusty-board.jp/blog/1571/)」をご参照ください。
原処分庁が不利益処分をしなければ審査請求を含めた不服申立てにつながらないのはわかりますが、自分達の機構定員を維持したいがために「納税者に対して処分を打て」とハッパを掛けるのはいかがなものかと思います。
納税者が税務争訟に巻き込まれるのみならず、大方の事案は税理士が代理人として就いており、税理士の負担が増すことに加え、税理士の納税者からの信用が毀損する可能性もあるのですから・・・。

ただし「なるほど」というコメントもあって、
「合議体メンバーが必要以上に法規審査担当、オブザーバーの意見に影響を受けて、本来の主体的な役割を果たしていない。」
「個々が黙々と仕事するのではなく、審査官も含めて議論に参加しやすい環境が大切だ。」
といった意見もあった。
平成25年度の認容割合は7.7%と急激に落ちこんだが、請求人ベースでは14%あるようなので、実質的には落ちていないようだ。

(補足)
法規審査担当者が合議のオブザーバ一として参加するのは、合議体による議決に審理の不尽、法令の解釈又は法令若しくは通達の適用の誤り等が生じないように、合議体に多角的な検討を促すような助言をするためと考えられています。
そうはいっても、合議体、特に担当審判官としては、事件処理の当初の段階の合議から法規審査担当者がオブザーバーとして参加することに若干の窮屈を感じる者がいないわけではありません。
特に、弁護士出身の担当審判官については、早期から法規審査担当者による介入・査閲を受けることで合議体内の自由闊達な議論を阻害し、法規審査担当者の処理方針に沿うような証拠収集・議決書の作成を誘導されているような印象を持つ者がいたような記憶があります。
原処分の全部又は一部が取消されることを「全部認容・一部認容」といい、審査請求件数全体に対する全部又は一部が認容された件数の割合を「認容割合(取消率)」といっています。
認容割合には処分件数ベースと請求人ベースがありますが、これは、1人の審査請求人に対して複数の処分がなされていることが多く、複数の処分をまとめて取消すように求める審査請求が通常だからです。
請求人ベースの場合は、複数の処分件数のうち一部でも取消されれば認容割合の分子にカウントされることから、処分件数ベースよりも認容割合は高く顕れます。

3.民間出身国税審判官の管理

民間出身国税審判官については、
「労務管理が難しい(公務員の常識が通用しないという意味も込められているのであろう)。」
「審判官に採用された者のレベルで審判所そのもののレベルが判断されてしまう。」
「合議体の検討段階で、なぜ法規審査担当の審査官が関与するのかと不満を持つ者もいる。」
というコメントが気になった。
また、
「民間出身国税審判官と人事面談すると、大きな事件を担当したいので東京支部で仕事をしたいという人が多いが、1年で異動することは可能なのか。」
という支部の問いに対して、本部の幹部が、
「希望は配慮するが、必ずしも希望どおりにはならない。」
という質疑もあった。

(補足)
民間出身国税審判官は審判部に所属し、その責任者が部長審判官ですので、部長審判官が民間出身国税審判官を人事評価することになります。
何十年と同じ公務員組織で勤務してきた国税職員にとっては、民間出身国税審判官は「外様」にほかならず、自らのこれまで培ってきた常識が通用しないという側面があるのでしょう。
また、民間出身国税審判官は、国税プロパー出身の審判官(副審判官)よりも年少者であることが多く、世代も出身も異なる3名の審判官が合議体を構成して事件処理の方向性を見出すという難しさもあり、そういった者を束ねる部長審判官なりの苦労もあるのだと思われます。
更に、民間出身国税審判官は、退官後にこの経験をどう活かすかを考えており、将来に活かせるような事案(国際事案や高度複雑な事案)を任期中にできる限り経験したいという欲求を持つ傾向にあります。
この他にも、応募者は大方が都市部であることから、できるならば、事案が限られる地方よりも、事案が豊富で興味深い都市部の事案に接したいと思うのでしょう。
こういった民間出身国税審判官の人事希望を聞く窓口としての役割を部長審判官が負っていることにもなります。

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