【0115】「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の違い

1.時間的近接性を表現する法令用語

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」は、そのいずれもある行為(事実)とその後に続く行為との間の時間的近接性を表現する場合に用いられる法令用語ですが、それぞれに許容範囲や遅滞があった場合の違法性の有無や程度に違いがあります。

一般的には、「直ちに」→「速やかに」→「遅滞なく」の順に許容・緩和されるイメージだと思いますが、「直ちに」とあるのにすぐに処理しなかった場合や「遅滞なく」とあるのに合理的な理由なく遅滞した場合には、何か違法性を帯びるように思いますし、「速やかに」は訓示的な含意で用いられることもあるようです。

しかし、法令の起案者がどの程度こだわりがあったか否かはともかく、同じ時間的近接性を表現する言葉で数種類の使い分けがなされている以上、それぞれ特有の意味を持っていると捉えるべきでしょう。

国税不服審判所の創設時の制度設計に携わった伊藤義一先生の「税法の読み方 判例の見方(TKC出版)」に、国税通則法の審査請求の規定を題材とした比較が記載されています。

2.「直ちに」

これは「すぐに」処理しなさいという意味で、間髪を入れずに処理しなければ違法(公務員であれば懲戒処分)の対象となり得るものです。

【例】国税通則法88条
審査請求は、審査請求に係る処分(略)をした行政機関の長を経由してすることもできる。(略)

2 前項の場合には、同項の行政機関の長は、直ちに、審査請求書を国税不服審判所長に送付しなければならない。

通常、原処分庁としては何らかの調査や判断を要せずそれに続く事務処理ができますし、即時に処理しなければ納税者の権利救済に支障が生じるために「直ちに」と規定しているようです。

3.「速やかに」

これは「直ちに」ほどには急迫の程度が低く訓示的意味を含むもので、通常の事務処理の処理期間内に処理すれば違法(懲戒処分)の対象とはならないものです。

【例】国税通則法103条
国税不服審判所長は、裁決をしたときは、速やかに、第96条(略)の規定により提出された証拠書類若しくは証拠物又は書類その他の物件及び第97条(略)の規定による提出要求に応じて提出された帳簿書類その他の物件をその提出人に返還しなければならない。

返還すべき証拠書類等は、各審査請求事件の分担者(国税審査官)が保管しているのが通常ですが、裁決したばかりでは、その後の一件書類の編綴・保管作業が整っていない可能性もあり、「直ちに」処理することが酷であると考えられたのでしょう。

4.「遅滞なく」

これは、「事情の許す限りできるだけ早く」という意味であり、合理的な理由があれば遅滞が許容されるものと解されています。

【例】国税通則法111条
再調査審理庁は、再調査の請求がされた日(略)の翌日から起算して3月を経過しても当該再調査の請求が係属しているときは、遅滞なく、当該処分について直ちに国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨を書面でその再調査の請求人に教示しなければならない。

これが「遅滞なく」であるのは、その教示の書面には、処分の理由を付記しなければならず(111条2項→89条2項)、数日ないし数週間程度では済まないこともあり、その時間的余裕を与える趣旨に出たものとのことです。

税務判断なら当事務所へ
お気軽にお問い合わせください

2024年10月
« 9月    
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031