【0101】裁決書決裁の「バスに乗り遅れる」

1.大阪国税不服審判所長の異動時期

歴代の大阪国税不服審判所長は、国税不服審判所本部所長と同様に、裁判官(判事)が2年ごとに検事に転官の上で着任します。

異動速報で「(兼)国税不服審判所長」という表現をご覧になったことがあるかもしれませんが、この「(兼)」は「検事(兼)」という意味です。

なぜ、判事であるのに検事に転官するのかというと、判事の身分では行政官になることができないからですが、人格は変わりませんので、いたって形式的なものなのでしょう。

国税不服審判所本部所長は平成・令和の偶数年の4月1日に異動を迎えますが、大阪国税不服審判所長は同じく奇数年の4月1日となり、1年のズレがあります。

これは、最近の異動は2年単位で落ち着いていますが、かつては、2年単位とは限らず、また、4月異動とも限らなかった時代があり、2年単位に落ち着くタイミングがたまたま1年ズレたものだろうと思われます。

2.新所長の仕事始め

本日(令和3年3月31日)をもって、川畑正文大阪国税不服審判所長が異動となり、裁判官に戻られ、新たな裁判官が着任されることになります。

現所長・新所長ともに10か所程度の挨拶回りが待ち構えているためか、3月末日まで現所長が裁決を出し続け、4月開始当初から新所長が裁決を出し始めるといったことはありません。

特に異動後は、行政組織としての国税不服審判所の組織の把握に始まり、現在係属している事件の概要の説明を受ける機会等が目白押しである他、法規審査担当の裁判官出身の審判官も同時に異動してきて、その方のレビューを経た上で所長室に持ち込まれるため、新所長の最初の裁決は4月下旬頃であるのが通常です。

新所長の最初の裁決は、徴収事件とするのがこれまでの慣例です。

なぜなら、国税徴収法は手続法であり、課税実体法である各税目よりも裁判官が取っかかりやすいと法規審査(審理部)が考えているからです。

それでも、大阪国税不服審判所長は、京阪神の地方裁判所の税務事件の部総括判事級が着任するため、税法事件を全く扱ったことがない方が着任されるケースはまずありません。

この最初の決裁を、法規審査や審判部は注目しています。

なぜなら、新所長がどういった点に着目し、どんな拘り・スタンスを持っているのかを見極めることにより、後続の事案を持ち込むに当たっての留意事項を把握する必要があるからです。

3.どの事案まで現所長・どの事案から新所長

所長室に決裁を持ち込む事案の数は、通常は1事案ごとですので、法規審査担当者は「どの事案まで現所長に決裁をお願いし、どの事案から新所長に決裁をお願いするか」の仕分けをすることになりますが、我々が思っている以上に大儀なことのようです。

国税不服審判所には、「1年以内の処理割合95%以上」という業績目標があり、いわゆる「1歳の誕生日」がやってくる前に裁決書謄本を発送しなければ、この目標は達成できません。

また、現所長の最後の決裁から新所長の最初の決裁まで1か月程度のタイムラグが発生することや、大阪国税不服審判所ほどの大規模な国税不服審判所であっても、最終的な決裁ルートは1本となること(首席審判官である所長は規模にかかわらず1人だからです)から、少なくとも、異動時期の前年のうちに、「審査請求日〇月〇日までの事案は現所長・〇月〇日後の事案は新所長」といった仕分けが行われることになります。

中には、審査請求書を拝見しただけで「これは棄却(納税者負け)だな」という心証を担当審判官が抱き、早々に裁決書案(議決書)の起案をしている事案であっても、上記の事情(他の事案との順番の兼ね合い)によって、数か月間事実上の棚ざらしとなり、決裁を待つという事案も発生します

更に、上記の仕分けによって、新所長決裁に回った事案については、更に1か月以上寝かされることになります。

私が国税審判官であった時分は、この現所長の決裁順に漏れてしまった事案のことを「バスに乗り遅れた」と表現していました。

仮に、現所長が内諾した処理方針について新所長が疑問を呈した場合、審理のやり直しという可能性も零ではないため、担当審判官とその事案の法規審査担当者は、心の中で「できるだけ現所長の下で決裁してほしい・・・」と心の中で願っているのです。

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