【0036】審判官の一挙手一投足をナーバスなほどに見ている

1.審判官経験者の同窓会

昨年4月、大阪国税不服審判所の審判官経験者の同窓会に参加してきました。

同窓会といっても、昨年3月まで第22代の所長でいらした西田隆裕さん(現在は大阪高裁判事)をはじめ、歴代の審判所長が来賓でおみえになる行事であり、第19代(平成23年~25年)の所長である西川知一郎さん(大阪高裁判事)の講話付きという内容の濃いものでした。

当日の参加者の中で、私がかねてよりご挨拶したい方がおられました。

その方は、第18代(平成21年~23年)の所長である本多俊雄さん(大阪高裁部総括判事)です。

2.所長見え消し裁決書

大阪国税不服審判所では、担当審判官が起案して審理部が修文した裁決書案を所長がペン入れされた生の裁決書を、執務の必要の範囲で閲覧することができました。

それは、見え消しの裁決書を確認することによって、歴代裁判官である大阪審判所長の判断権者としての思考の一端を学び、現在及び将来の事案の適正な事案処理に活かすためです。

特に、本多さんによる見え消し裁決書は、修文された趣旨を「吹き出し」で端的に解説しておられるもので、直接面識がないながら、当時の私も大いに参考にさせていただいていました。

3.本多元所長の講演録

その本多さんが大阪審判所職員向けにされた講演録が大阪審判所のデータフォルダに残っていて、私が審判官1年目にお世話になった総括審判官が、「大橋さん、時間があればこの本多元所長の講演録を是非読んでほしいです。」と言われ、私も拝読していました。

その講演録の中で、私が特に記憶に残っているのは以下の言葉です。

「当事者」を「審査請求人(納税者)」、「判断権者」を「審判官」に読み換えてください。

「当事者は、判断権者から自分の言い分が通るか否かの判断を受けるものですから、判断権者の一挙手一投足をナーバスなほどに見ています。審理手続中のいろいろなことで当事者に不信を抱かせるようなことがあってはいけません。」

その後、私の審判官3年目に、大阪審判所を中心とした全国の審判所職員に対して、内部研修の講師をする機会がありましたが、テーマを「請求人面談を円滑に実施するために」と設定し、その冒頭で、上記の本多さんのお言葉をご紹介しました。

4.審査請求人に対する接遇に細心の注意を払うこと

たとえ、審判官が審査請求書などの主張書面を読み、事前に職権調査を実施することによって、審査請求人の言い分に与(くみ)することが難しいという印象を抱いたとしても、請求人面談による答述を聞いてみなければ判明しない事実関係もあり、それによって判断の趨勢が変化することもあり得ます。

万が一、「まぁ、本件について救済は難しいだろうけど。」という審判官の心証が、態度や発言に発露して審査請求人に伝われば、「審判所は自分の話を聞いてくれなかった。」とのわだかまりが残り、後に棄却裁決を受け取ることによって、「審判所は税務署寄りではないか。」という審判所の第三者性に対する疑問を抱えたまま、次年度以降の納税を余儀なくされることになります。

私は、審判官1年目に本多さんの講演録に触れる機会を得たことをありがたく思っており、そのお礼と3年間の任期における私なりの請求人対応の実践をご本人にお伝えしたかったのです。

本多さんは「私の話の本質に気付いてくれましたか。」と笑顔で応じていただくとともに、「税理士さんが、国税の争訟事案について判断権者の立場を経験したことは、今後のお仕事にとても役立つでしょうね。」とおっしゃっていただきました。

リーガルの心得がない状態で国税審判官を経験するなど、今から思えば力不足も良いところで、「審判所長と『差し』で議論できる力量が自分にあれば、裁決判断が変わっていたのではないか。」と思うような後悔もあるのですが、いずれにせよ「終わってみれば良い経験」だったことをこの同窓会で再認識することができました。

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