【0037】簡潔明瞭な裁決書

1.簡潔明瞭な裁決書とは

国税不服審判所において受けた訓示でもっとも良く聞いた言葉に「簡潔明瞭な裁決書」があります。

訓示だけではなく、法規審査担当の裁判官出身の国税審判官による審判部の職員に対する定期的な講義もありました。

簡潔明瞭な裁決書とは、事実と結論の道筋が簡潔明瞭に示された裁決書を意味しており、具体的には、裁決書上において以下の諸点が満足されているものだと思います。

・当事者の主張が的確に整理されている
・争点が明確に示されている
・その争点について法令解釈、事実認定、当てはめが端的に示されている

2.争点を中心とした裁決書

そうした争点を中心とした裁決書を起案するためには、まずもって「争点整理(主張の分析)」が的確に行われなければなりません。

争点は両当事者の主張の相違点といえますが、争点の把握に当たっての基本は、次の事項を的確に認識する必要があります。

・法令に規定する課税等要件
・課税等要件を充足するための課税等要件事実(主要事実)として把握すべきもの
主張が課税等要件に即してされているか、その理由は課税等要件事実又はその間接事実を摘示して行われているか
証拠が明確に明示されているか

審査請求書の中には、長文で不明確な記載があるものが相応に含まれるものですが、そういう事案こそ、

・法令に規定する課税等要件は何か
・これを充足する課税等要件事実(主要事実)は何か

を常に反問し、かつ、それらの中で、

・要証事実(立証を要する事実)は何か

を的確に把握して調査審理しなければ、いきおい裁決書も冗長なものになってしまうでしょう。

3.事実認定における留意点

私は、任官当初、「証拠」と「(認定)事実」が違うことの理解に相当な時間を費やしました。

「認定すべきは事実であって証拠ではない」というのは、過去に取り上げた「民事判決起案の手引き」にも記載されていることですが、この証拠を評価して事実を認定するプロセスは、税理士がなかなか馴染めないところではないでしょうか。

そのプロセスを裁決書に表現していくにしても、判断に重要な事実で、当事者間に争いのある事実については、なぜそのような認定に至ったのかについて証拠を示して的確な論理により明確にする必要があります。

同時に、認定事実に反する証拠がある場合には、それを無きものとするのではなく、なぜその証拠が採用できないのかを明らかにする必要があります。

ほかにも、たとえば、関係人の申述又は答述について、一方で信用できるとしながら、他方でこれと矛盾する事実を認定するといったことを避けるであるとか、ある事実から他の事実を推認する場合には、なぜ推認できるのかについて分かるように記載するといって留意もしなければなりません。

そう考えると、審判実務において「簡潔明瞭な裁決書」ほど「言うは易く行うは難し」なものはなく、私にとってはるか遠くにある理想の境地であったように思います。

究極的には、担当審判官が議決した裁決書案がそのまま修文を受けずに審判所長に決裁され世に出るのが理想であるところ、両者の差分が埋めがたいところに自分の力不足が露見してしまうものでした。

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