【0234】裁決書の様式(その1)

1.裁決書ならではの「お作法」がある

審査請求人が審査請求書という書面において原処分の取消しを国税不服審判所に求めたことに対して、審判所は最終的に「裁決書」という書面で回答することになります。
裁判所も「判決書」という書面で回答することになりますが、どちらも「行間を読ませる(言いたいことのニュアンスを伝える)」ことが難しく、その書面が独り歩きして将来の納税者や税理士に(思い思いに)解釈されてしまう虞があるという宿命があります。
そのために、担当審判官が起案した議決書(裁決書案)は、合議体による議決後に法規審査部門に回付して法規審査を経た後に決裁(裁決)され請求人及び原処分庁に発出されることになりますし、裁決後の情報開示請求に対応することになります。
また、裁決書も行政文書である以上、公用文としてのお作法に基づいて記載しなければならないですし、民事判決に類似した書面ならではの様式的なお作法にも気を配らないといけません。
今回から数回にわたり、平成29年度から導入された「新たな裁決書方式」を前提とした裁決書のお作法についてご説明します。

2.「事案の概要」欄

裁決書の冒頭において、事件の全体像を把握するために設けられているものであり、できる限り簡潔に記載するのが望ましいです。
したがって、「事案の概要」欄における略語の定義は、極力最小限(原則「審査請求人」のみ)に止められています。
この場合、一般的に実務で使用されている文言(例えば、住宅借入金等特別控除、居住用財産の売却に係る譲渡所得の課税の特例、移転価格税制等)については条文を示すことなく記載し、定義は「関係法令(等) 」欄以降におくこととして差し支えないとされています。
また、処分が複数年分にわたるものであっても、「各更正処分」ではなく、単に「更正処分」と、複数税目や更正処分と賦課決定処分が争われているものは「等」を使用することとして差し支えないとされており、例えば、所得税と復興特別所得税は「所得税等」、更正処分と賦課決定処分は「更正処分等」と記載し、定義は「関係法令(等)」欄以降におくことになります。
具体的に裁決書を読むとこの欄は一文で記載されていることが多いと思いますが、一文で表現できる程度に記載することが意識されているようです。

3.「関係法令(等)」欄

記載順序は、法体系や法構造を意識して論理的に決定することになりますが、争点の判断に必要のない条文等は記載しないのが望ましいとされており、例えば、更正処分や更正をすべき理由がない旨の通知処分が審査請求の対象であっても、争点が必要経費算入の可否(所得税法第37条)を争った事例の場合、国税通則法第23条や第24条を記載する必要はないとされています。

4.「基礎事実」欄

過去には、「基礎事実」欄の柱書に、「以下(次)の事実は、【請求人と原処分庁との間に争いがなく】、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。」と記載していましたが、「基礎事実」欄に記載した事実は当事者間に争いがないか又は本格的に争っていないことが前提ですので、【】部分は今後記載しないことを原則とし、例えば、「当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下(次)の事実が認められる。」と記載するとともに、証拠の出所までは記載する必要はないとされています。
「基礎事実」欄の各項目には、課税要件事実など判断に必要な事実や事案あるいは双方の主張を理解する上で前提となる事実のうち、当事者双方に争いがない事実や証拠から容易に認定できる事実を記載することになりますが、その際、争点の判断にも使用する事実については、事案に応じて「認定事実」欄に再度記載するか、「当てはめ」欄において「基礎事実」欄に記載した内容を引用する形で記載することになります。
なお、略語を定義する際には、例えば「本件年分」と「本件各年分」を併存させているなど、誤解を招く可能性のある略語を併用しないよう工夫する必要があります。

5.「審査請求に至る経緯」欄

過去には、「審査請求に至る経緯」欄の全てを別表形式(例えば、「申告」「原処分」「再調査の請求」「再調査決定」の列を設けて所得金額・税額の変動の推移を表現した表形式)に委ねる方法を採用しているものが多々見受けられましたが、「新たな裁決書方式」では「基礎事実」欄から「審査請求に至る経緯」欄まで、事実を時系列に記載することを意識した様式になっていますので、別表を使用する場合には、申告年月日や処分年月日を本文中に記載した上で、申告内容及び処分内容を別表に記載する形式とすることが望ましいとされています。

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