【0169】歴代の大阪国税不服審判所長が選んだ在任当時の公表裁決事例(その2)


1.第19代 西川知一郎さんの経歴

2021.5.10 神戸地裁所長(現職)
2019. 5.24 大阪高裁部総括判事
2018. 5. 5 大津地家裁所長
2015. 9.12 福岡高裁宮崎支部部総括判事
2014. 8.18 神戸地家裁尼崎支部長・尼崎簡裁判事
2013. 4. 1 大阪地裁部総括判事
2011. 4. 1 検事【大阪国税不服審判所長】
2006. 4. 1 大阪地裁部総括判事
2003.11. 1 大阪地裁判事
2002. 4. 1 大阪高裁判事
2001. 4. 1 大阪地裁判事・大阪簡裁判事
1996. 4. 1 最高裁裁判所調査官(東京地裁判事)
1995. 4.12 東京地裁判事
1994. 4. 1 東京簡裁判事・東京地裁判事補
1991. 4. 1 福岡地家裁判事補・福岡簡裁判事
1988. 8. 1 最高裁行政局付(東京地裁判事補)
1985. 4.12 東京地裁判事補
司法修習第37期

2.西川元所長との関わり

私は平成26(2014)年任官であり、西川さんはその前に大阪国税不服審判所長を離任されていますので、大阪国税不服審判所でご一緒した経験はありません。
しかし、私は、任官される2年前(2012年)に国税審判官採用試験を受験しており、その面接試験の面接官のおひとりが西川さんでした。
正直に申し上げて、当時の私は「税理士試験と公認会計士第二次試験の双方の試験合格と実務経験を経ているのだから合格して当然だ」と思っていました。
首尾よく書類選考を通過し、東京霞が関の財務省本庁舎であった面接試験に臨みましたが、国税不服審判所本部所長を筆頭とした幹部によるリーガルセンスを問う質問に全く対応できず、挙句の果てに西川さんから「あなたは、国民全体の奉仕者になるというよりも、自分のキャリアのためだけに応募したのではないですか?」と看破されてしまいました。
西川さんと同勤した方からお聞きすると、西川さんは裁決書案の「上記・・・のとおり」といった引用部分に立ち返ることなく頭から読み下してペン入れをするといった頭脳明晰な方だったそうです。

3.西川元所長が取り上げた裁決要旨

相続人らから本件被相続人への本件各金員の支出は、本件被相続人が相続税対策のために相続人らに贈与を行っていたことなどからすると、相続人らから本件被相続人への贈与であったとみることは困難であるから、本件各金員は、相続人らから本件被相続人に貸し付けられたものと認められるとした事例(平25. 3. 4 大裁(諸)平24-56・全部取消し)

原処分庁は、請求人らが主張する、本件被相続人が負っていた請求人らを含む相続人らからの借入金債務(本件各借入金債務)は、相続開始日において存在していない旨主張する。
しかしながら、本件各借入金債務の原資(本件各金員)は、相続人らが支出したものと認められることに加え、当該支出について、相続人らは、本件被相続人が同人の営む病院(本件病院)の建物建築資金等に係る銀行借入を返済するために本件被相続人へ貸し付けたものである旨答述するところ、本件病院は本件被相続人から建物を賃借して営業を行っていたこと、相続人らは本件病院の経営に関わるとともに、本件病院からの報酬で生計を維持していたこと、本件病院の収入は年々減収しており、当該建物の賃借料や当該報酬も引き下げていること、本件被相続人の法定相続人は同人の配偶者又は子である相続人らのみであり、相続人らが本件被相続人の財産及び債務を相続することが予定されていたこと並びに過去において、本件被相続人から相続人ら及び孫らに対し定期的に贈与がされていたことからすると、上記の銀行借入の返済が滞る事態が生じれば、本件病院の維持継続が困難となり、相続人らの生活に直接大きな影響を与えることとなることが容易に想定されることなどから、当該答述内容は相続人らが本件被相続人に対して本件各金員を支出するに至った経緯として自然なものということができる。
なお、本件各金員は孫らの進学資金などとして積み立てていたものであること並びに上記の本件被相続人から相続人ら及び孫らに対する定期的な贈与は相続税対策のためのものと推認されることからすると、本件各金員の支出が相続人らから本件被相続人への贈与であったとみるのは困難である。
したがって、本件各金員は、相続人らから本件被相続人に貸し付けられたものと認めるのが相当である。

4.西川元所長のコメント

生前に被相続人の借入金の返済資金として相続人らから被柑続人に交付された金員が債務控除の対象となるかが争われた事案で、主たる争点は、当該金員の交付が貸付けか否かという認定問題であるところ、本裁決は、金銭消費貸借契証書等の客観的な直接証拠を欠く中で、丁寧に間接事実を拾い上げた上、経験則に照らして無理のない事実認定を行い、原処分を取り消したものである。
取消訴訟で争われたとしてもほぼ同旨の認定判断となることが見込まれるところ、その前段階の不服申立手続において、説得力のある認定判断を説示した裁決でもって、納税者の迅速な救済が図られた点において、国税不服審判所の真価が発揮された事例の一つではないかと思う。

「贈与」か「貸付」かのいずれと考えるべきかについては、相続税申告に当たって税理士が思案する典型的な論点ですが、このような論点について、本件の審査請求人の権利救済のみならず、将来の納税義務者や課税庁に示唆を与える裁決を発出することが国税不服審判所の真価ではないでしょうか。

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