【0167】歴代の大阪国税不服審判所長が選んだ在任当時の公表裁決事例(その1)


1.「大阪国税不服審判所50周年記念」パンフレット

国税不服審判所は令和2年5月に設立50周年を迎えました。
国税不服審判所は「国税不服審判所の50年」という187頁に及ぶ記念誌を製作していますが、大阪国税不服審判所も「大阪国税不服審判所50周年記念」という14ページのパンフレットを製作しています。
このパンフレットには、第13代から第22代までの歴代の大阪国税不服審判所長が1頁ずつ寄稿されており、うち第18代から第22代までの5名の審判所長については、「歴代所長が選んだ在任当時の公表裁決事例要旨」というタイトルで、それぞれ任期2年の間に印象に残った公表裁決を取り上げられ、コメントを寄せておられます。

2.大阪国税不服審判所長のキャリア

国税不服審判所の本部所長は裁判官出身者が法務省から出向で着任し、本部次長はいわゆるキャリア官僚が着任します。
そして、国税局(国税事務所)の管轄と同じく12の支部(各地域審判所)があり、その首席審判官(各地域審判所長)に対して、本部所長が有する裁決権が委任されています。
この12名の首席審判官のキャリアは、支部の大小に応じて様々ですが、うち東京支部の首席審判官(東京国税不服審判所長)は検察官出身者が、大阪支部の首席審判官(大阪国税不服審判所長)は裁判官出身者が歴代にわたり法務省から出向で着任しています。
したがって、大阪国税不服審判所の歴代の所長は、裁判官がその期間は検事に転官した上で着任しています。
そして、裁判官の経歴としては、京阪神の地方裁判所の裁判長(部総括判事)を経験した方が、大阪高等裁判所の判事級(実際には大阪高等検察庁の検事)として着任する例が多いです。

3.第18代 本多俊雄さんの経歴

現職 京都大学大学院法学研究科教授
2020.3.17 依願退官
2018.12.27 大阪高裁部総括判事
2017. 5. 1 神戸地裁所長
2015. 7. 2 神戸家裁所長
2014. 8.18 高松家裁所長
2014. 2.26 神戸地家裁尼崎支部長・尼崎簡裁判事
2011. 4. 1 大阪地裁部総括判事
2009. 4. 1 検事【大阪国税不服審判所長】
2004. 4.13 大阪地裁部総括判事
2004. 4. 1 大阪地裁部総括判事・大阪簡裁判事
2001. 4. 1 京都地裁判事・京都簡裁判事
1999. 4. 1 名古屋高裁金沢支部判事
1997. 4. 1 金沢地裁判事
1994 4.13 東京地裁判事
1994. 4. 1 東京地裁判事補・東京簡裁判事
1992. 4. 1 鹿児島地家裁名瀬支部判事補・名瀬簡裁判事
1989. 4. 1 大阪地裁判事補・大阪簡裁判事
1987. 4.13 大分地家裁判事補・大分簡裁判事
1986. 4. 1 大分地家裁判事補
1984. 4.13 京都地裁判事補
司法修習第36期

4.本多元所長が取り上げた裁決要旨

質問検査に至る前段階として必要な情報収集の方法は、社会通念上相当な限度にとどまっていると認められるので、合理的な裁量の範囲を逸脱するような違法は認められないとした事例(平21. 7. 2 大裁(所)平21-4・棄却)

請求人は、原処分に係る調査を担当した職員が身分を明らかにせず客になりすまし請求人の承諾を得ることなく従業員に対して事業内容等を質問した行為は、所得税法第234条第1項及び同法第236条に違反し違法である旨主張する。
しかしながら、税務官署として更正・決定の場合のみならず、それ以外の場合にあっても、一定の処分をするか否かを認定判断する必要がある場合には、税務職員にはそのために必要な範囲内で質問検査によることなく職権による調査をすることもできると解されるところ、その具体的な手法は、その調査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において、質問検査に至らない範囲で、かつ、社会通念上相当な限度にとどまる限り、調査を担当する税務職員の合理的な裁量に任されているというべきであり、本件においては、調査担当職員は、請求人の経営する店舗に臨場する日の前に、客として同店舗に訪れ、従業員との話の中から1日の客数や従業員数等の業務様態についての情報等を収集したものであるが、これは調査担当職員が、請求人の正しい所得を把握するため、質問検査に至る前段階として、必要な情報を収集したというべきものであり、その情報収集の方法は、社会通念上相当な限度にとどまっていると認められ、これについて合理的な裁量の範囲を逸脱するような違法は認められないから、調査が違法であるとの請求人主張は採用できないというべきである。

5.裁決の特徴

本件は、原処分庁が美容業を営む審査請求人に対して行った原処分について、請求人が調査手続等に違法があるなどとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の3点でした。
争点1 調査手続等に違法があるか否か。
争点2 推計の必要性が認められるか否か。
争点3 推計方法に合理性があるか否か。
所得税法第234条<当該職員の質問検査権>及び同法第236条<身分証明書の携帯等>の条文は、現在は平成23年12月の税制改正により削除され、新たに国税通則法に規定が新設されていますが、税務調査の手法や手続に係る不服申立ては、それ以前からも継続的に発生しています。

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