【0116】民間出身国税審判官の或る日の日記(その14)

1.平成27年〇月〇日

始業前に先週金曜日の納税者の一件の話をしていた。

(補足)
過去に、いささか興奮した納税者の方が電話をしてみえて、来所いただき話を開くことになりましたが、どうやら不服申立てではなく徴収官による滞納処分執行時の不満を国税不服審判所に申し立てているようでした。
審査官が真ん中のフリーデスクに座らせて応対していましたが、犯罪者のような対応をされたと受け取られたことに不満を持っているようでした。
しかし、国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分の取消しをすべきか否かを審理する機関であり、税務署所属の調査官(徴収官)に対するクレームは、その署の総務課長若しくは国税局の納税者支援調整官が当たることになります。
そうはいうものの、「管轄外だから」といってけんもほろろに対応すると余計に話がこじれることが目に見えているため、いったん審査官がお話を聴いた上で、応対できる部署を案内していました。
その納税者の方が、先週の金曜日に再び見えたときのお話を始業前にしていました。
本所であれば、そのような業務は審判部とは別の部屋である管理課の職員が引き受けてくれるのですが、支所は(支所長室以外の)全体が1つの執務室であり、必ずしも審査請求とは関係がない納税者の対応も行わなければなりませんし、執務中に話が聞こえてくることも受忍しなければなりません。

2.ガチンコVS根回し

明日のA事件の最終合議に当たり、事前に支所長に説明することになったが、「事前に副審判官に争点の確認表の変更箇所について説明しておいてよかったな~。これで支所長説明時に一緒に聞いてもらえるに際しての同期が取れた。」と思ったら、実際に支所長室に入る段階になって、総括審判官が「副審判官には入ってもらう必要がない。」と言った。
案の定、副審判官が疎外感を覚え、終了後に総括審判官に対して「後で説明してもらえるんでしょうけど、一緒に内容を聞かせてもらわないと!」と訴えたので、事後ではあるが総括審判官が副審判官に時間を掛けて説明していた。

(補足)
1件の審査請求事件については、3名の審判官・副審判官が合議体を構成し、その過半数の議決をもって議決書を起案し、法規審査部門を経由の上で審判所長の決裁を得ることにより裁決書が発出される仕組みです。
A事件は、総括審判官が担当審判官で、私と副審判官が参加審判官の立場でしたが、実際の調査審理は私が事件主担者の立場で主体的に関与し、総括審判官と副審判官と随時協議していました。
しかし、私は当時1年目で税務争訟の指揮も執ったことがなければ、裁決書案(議決書)の起案能力も乏しく、かつ、税務行政内部の経験もないという状況で、国税不服審判所の経歴が長い総括審判官におんぶにだっこの状態で調査審理を行っていたのです。
そうすると、どうしても総括審判官の意向を優先して調査審理を行うことになり、同じ重さの議決権を有する副審判官のコメントを尊重できない場面も出てくるようになりました。
そういった副審判官の不満が、支所長(部長審判官)に対する説明に自分が参加させてもらえないという場面で発露してしまったのでした。

総括は、支所長説明において、以下のことを述べた。
今回の裁決の方針は「1項の規定に該当しない。」と審査請求人の主張を排斥しているが、同じ審査請求人に対する過去の裁決では「(同条)2項の規定に該当しない。」と審査請求人の主張を排斥している。
現所長の在任時に決裁されるならば、既に裁決方針の説明を行っており同意を得ているため波乱はないかもしれない。
しかし、4月の異動で着任する新しい審判所長が、「同じ審査請求人に対する前回の裁決が、争点を一元化し、かつ、2項中心で排斥しているのに、なぜ今回はそうしないんだ。」という趣旨のコメントをした場合には、裁決書の内容が全面的に差替えになってしまうかもしれない。」
しかし、合議体による議決後も裁決内容のリスクが残ってしまうのは自分としては嫌だ。

(補足)
A事件は、過去に同じ審査請求人が同じ論点で審査請求をしており、行政判断としては前回と同様の裁決の方向性になるところでした。
しかし、その条文の規定が「1項に該当したとしても(手続規定である)2項を充足しなければ軽減措置を適用しない」となっており、審査請求人も「1項の該当性を判断してほしい」という主張であったため、前回の裁決のような「どうせ2項を充足しないのだから軽減措置の適用はないだろう。」という判断プロセスでは、必ずしも法令に従った判断ではないのではないかという論点を抱えていました。
そこで、「主文は同じになるとしても判断プロセスは前回の裁決とは異なる」ということを審判所長はじめこの事案を経由する方に了解していただく必要があったのです。

お昼休みに総括審判官と2人で歩いていた時に、「文言修正だけだから副審判官に同席してもらわなくても良いと思ったが、これからは合議前であっても(合議の場でなくても)、意識的に議論に参加してもらう。」と言っていた。
「根回しを意識すると、副審判官が不満に感じたこともわからないではないのだが、本来根回しは必要ないし、異なる意見があれば合議の場で堂々と言えば良い。」という総括審判官のスタンスは変わっておらず、総括審判官はガチンコ重視、副審判官は根回し重視というスタンスの違いがはっきり顕れた。
しかし、間に挟まれることによる余計な内部エネルギーに振り回されたくないのが本音だ。

(補足)
これは、必ずしも審査請求事件の事件処理とは関係がないのかもしれませんが、公務員組織やある程度の規模の企業になると、発言権のある者の個性や考え方の違いの板挟みにしばしば遭遇します。
一般的には、総括審判官の主張する「異なる意見があれば合議の場で堂々と言えば良い。」という考え方が正しいのでしょうが、殊に日本の組織では、副審判官の「合議の前に自分に根回ししておいて欲しい。」という考え方も依然として根強く存在しているのも確かであり、それが公務員組織であれば尚更のことです。
ただ、そういった事件処理に直接関係のない組織内のコンフリクトに民間出身者が巻き込まれていたことにいささか辛い思いをしていました。

3.事件の移送

本所からB事件の事件移送の決裁書類が返送されてきたので、審査官から東京支部、原処分庁、請求人にそれぞれ発送してもらった。
念のため、請求人には、「新住所で送らせてもらいますけどよろしいですよね?」という念押し電話を審査官からしてもらった。

(補足)
各地域の国税不服審判所の管轄は、各国税局(国税事務所)の管轄と同じですので、納税地が管轄を跨ぐと、審理する国税不服審判所の管轄も変わり、B事件は納税地が兵庫県から東京都に移ったことから、国税不服審判所の管轄も大阪支部から東京支部に移り、審査請求の一件書類も東京支部に移送することになりました。
当初合議の資料まで作成して合議を開催する直前だったので、その資料は幻となりました(事件を引き継いだ東京支部の担当審判官が活用したかもしれませんが)。

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