【0096】民間出身国税審判官の或る日の日記(その4)

1.平成26年8月〇日

お盆休みウィークに入った。

(補足)
官庁ですのでお盆休みの一斉休暇はなく、交替で誰かは出勤しており、総員10名の支所でも最低2人は出勤しています。
実際に、この年の8月15日は私と審査官の2名のみの出勤であり、国税庁長官指示による正午からの黙祷を2人のみで行いました。
しかし、審判所は「合議」によって結論を得る組織である以上、構成員の誰か1人でも欠けると合議を開催できない(意思決定できない)ことになり、この交替で休暇を取得する仕組みは、殊に審判所においては請求人を待たせることにつながっている気がします。

2.初めての合議出席

午後から自分が参加審判官をする事件の最終合議があり、議決書案をチェックして、結論には関係ないが誤りを指摘した。
合議を初めて経験したが、なかなか議論に入り込めないというか、議決書案について数字の誤り以外の根本的な疑問をこんなに出せる能力が自分にはまだないと感じた。
裁決書は一義的には審査請求人と原処分庁のためにあるものの、その内容は先例的性格を持つので、事案としては大したことがなくても、それが公表されて独り歩きしたときに、その説示が耐えうるか(と裁判官である所長に説明できるか)という点についての審理部の注文が多かった。
その事件を担当する副審判官もここまで指摘されるとはという感じで、盆前の議決ができなかった。

(補足)
審判部における3名の審判官(副審判官)により合議体を構成し、その議決に基づいて審判所長が裁決しますが、実際には、所長を補佐する法規審査部門(大阪審判所では審理部)の関与を初期段階から受け、合議にもオブザーバー参加します。
誤字脱字といった表面的な誤りならば指摘することはできますし、税理士は税額計算までのひと通りの計算はできますので、数字の誤りも指摘しやすいです。
しかし、民事判決に類似する「裁決書」としてふさわしい書きぶりに仕上げるためには、会計・税務以前に「リーガル」としての素養を必要とします。
その事案自体は争う税額が低いものでしたが、それが莫大な税額の事案であっても判断プロセスに問題がない裁決書をリリースしなければならないところに、裁決の重みがあります。

審判所は同じ事件について、必ずしも税法を理解していない納税者から裁判官まで相手にしないといけないので確かに大変である。

(補足)
審査請求等の不服申立ては代理人のいない(本人審査請求の)事案の割合がそれなりにありますが、争点設定と主張整理のために請求人本人に釈明を求めても、担当審判官の質問意図を理解してもらえないことが往々にしてあるほか、最終的には審判所長の決裁を得なければならず、審判所長や法規審査担当審判官(ともに裁判官)に対する事前の処理方針説明にも気を遣うという、私にとってはかなり高度な職務でした。

3.飲み会の多い職場

合議が15:00設定なのは、終了後に本所から出張してきた審理部のメンバーと飲みに行くからである。
自分はその事件については担当審判官ではないが合議体メンバーであるので駆り出される。

(補足)
国税組織は飲み会が多いと事前に聞いており、国税審判官に任官されることをお世話になった税理士先生にご報告した際に「君、酒は飲めるのか?あの職場は酒が飲めた方が人間関係は円滑に行くのだが」と言われたこともあります。
審判所は私のような民間出身者もいることから思っていたほどではなかったですが、それでも民間(特に監査法人や税理士事務所)に比べるとその機会はまだまだ多いと思いました。
ただし、国税組織についての興味深いお話を聴くことができ、「同じ釜の飯を食う」組織文化を経験するという点では良い機会だったと思っています。

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