【0077】「却下」「取下げ」でも納税者の勝ち?

1.審査請求の処理状況

令和元年度(会計年度)における国税不服審判所長に対する審査請求の処理状況は以下のとおりです。
❶全部認容 90件
❷一部認容 285件
❸棄却 1,989件
❹却下 134件
❺取下げ 348件 計2,846件

このうち、総処理件数に対する❶(処分の全部取消し)と❷(一部取消し)を合計した件数の占める割合を「認容割合(認容率)」といい、令和元年度は13.2%でした。

ただし、公表される数値は処分件数ベースです。

どういうことかというと、例えば、
「過去3期を対象とした法人税の税務調査で減価償却資産の償却超過についての更正処分を受けた」場合であると、
❶法人税 3件
❷地方法人税 3件
計6件が通常係属しますが、審査請求人は1人でしかなく、裁決書も当然ながら1本となります。

極端なケースとして「青色申告承認取消+過去7年に遡り売上脱漏を指摘された個人事業者」の場合がありましたが、この場合は、
❶青色申告承認取消処分 1件
❷所得税 7件
❸消費税 7件
❹地方消費税 7件
❺重加算税 ❷+❸+❹=21件 
❶+❷+❸+❹+❺ 計43件

となり、これは、復興特別所得税の創設前の年分ですので、同税目創設後の年分であると仮定すれば、
❻復興特別所得税 7件
❼重加算税 ❷+❸+❹+❻=28件 ❶+❷+❸+❹+❻+❼ 計57件
になっていたことでしょう・・・。

したがって、処分件数ベースでは認容割合が10%そこそこであっても、請求人ベースで一部でも取消しがあった者の割合を算出すると、もう少し高くなるのが通常です。

2.「却下」「取下げ」とは

「取下げ」とは、審査請求人が審査請求を裁決までに自主的に取り下げる行為です。

また、「却下」とは、審査請求人に訴えの利益(不利益処分)がない場合や重大な補正に応じない場合などにおいて、実質審理に入る前に国税不服審判所長が門前払いとする行為です。

審査請求人にとっての勝利は、「全部認容」か、少なくとも「一部認容」であり、「却下」「取下げ」は納税者の勝利ではないはずですが、国税不服審判所を経験して、これらの区分においても実質的に納税者の勝利になる類型があることを知りました。

3.公認会計士出身審判官の指摘

法人税で「デリバティブ取引(金利スワップ取引)」に関する国税局の調査部事案がありました。

審査請求人は、原処分庁による処分の理由の誤りを「審査請求の理由」において懇々と述べているのですが、その事案の担当審判官は弁護士であり、金利スワップ取引の内容及びその会計処理についての理解に難渋していました。

その事案は隣の審判部に係属していたのですが、その部長審判官が、「隣の審判部に公認会計士出身の審判官がいるのだから、聞いてみたらどうか?必要があれば『オブザーバー』の形で合議に参加してもらっても良いのではないか?」とアドバイスし、任官まで監査法人のマネージャーをしていたA審判官に対して照会がありました。

直近まで上場企業の監査主任としてデリバティブ取引に日常的に接していたA審判官は、預かった証拠資料(金融機関発行の明細)を見ながら「この処分、何だかおかしいよね?」といいながら電卓を叩いたり、EXCELで受取金利・支払金利の時系列表を作成したりしていましたが、最終的にある結論をまとめました。

「審査請求人は、『実現益』を既に課税所得に算入しているのに、原処分庁は更に『評価益』にまで課税する処分をしており、結果として二重に課税している状態である。

A審判官は、オブザーバーとして参加した合議において、証拠資料の読み方、デリバティブ取引の仕組み及び会計処理を説明し、担当審判官に「『証拠のこの部分を誤解しているのではないか?』と原処分庁の担当者に照会してみてはどうか?」とアドバイスしました。

担当審判官は、完全に理解している自信がない状態ながら、原処分庁の窓口である国税局の調査審理課の担当者にA審判官による疑問を照会したところ、しばらくして、「すいません、原処分が誤っていました。速やかに減額更正処分を行います。」との回答があったそうです。

原処分が明らかに誤りであるにもかかわらず、数か月後の国税不服審判所長による裁決まで待つということは納税者のためにならないことはもちろん、何より原処分庁にとってはそのような裁決を食らうことは恥以外の何者でもないからです。

4.原処分にも明らかな誤りがある

減額更正処分があった場合、国税不服審判所長に対する審査請求の扱いはどうなるでしょうか。

減額更正処分により、審査請求人にとって「請求の利益」は既に失われていますので、その事案担当の国税審査官が代理人に対して、「本件は『取下げ』されますか?取下げがない場合には請求の利益が既にないので『却下』裁決となります。」と説明し、結果として「取下げ」に至りました。

これによって、向こう数か月間の累計数百時間に及ぶ工数が削減されたほか、納税者の早期救済にも寄与したことから、A審判官の国税不服審判所内における株が上がったことはいうまでもありません。

このように、「却下」「取下げ」の中には、国税不服審判所の審理の過程において原処分庁による明らかな判断ミスが摘出され、それが原処分庁によって早期に是正された事案がチラホラ含まれているのです。

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