【0149】裁決までに1年かかる「実際の」理由

1.国税不服審判所の業績目標

簡易迅速な手続により国民の権利利益の救済を図ることが行政不服審査の目的の一つであるため、国税不服審判所が速やかな審理を行い、迅速に裁決をすることは極めて重要です。

そこで、国税不服審判所では、国税庁が達成すべき目標に対する業績目標のうち、「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収において、「不服申立てに適正・迅速に対応し、納税者の正当な権利利益の救済を図ります」という業績目標を掲げ、平成16年度から「測定指標(旧業績指標)」に「1年以内の処理件数割合」を掲げるとともに、国税不服審判所長は国税通則法77条の2に規定する標準審理期間を1年とするよう定めています。

この標準審理期間は事件の審理期間の目安として定めるものであり、設定された標準審理期間内に裁決をしなければならない義務を国税不服審判所長に課しているものではありませんので、当該標準審理期間を経過したからといって、不作為の違法又は裁決の手続上の瑕疵には当たらないとされています。

一方、国税不服審判所は、審査請求人が手続上の諸権利を活用し、主張を尽くすことができるよう配意する必要があり、審査請求の理由の追加的主張が再三にわたって提出される場合等は争点整理に長時間を要すため、裁決までに1年を超える場合があります。

これらの状況を踏まえ、「事務運営に当たり特に留意すべき事項について(「審判所特留」といいます)」では、裁決までの処理目標期間を「原則1年以内」としています。

個々の事件においては、態様に応じた処理計画等を策定することにより、事件の平均処理期間は10か月程度となっており、新型コロナウイルス感染症の影響といった特殊事情を除外すれば、迅速な事件処理が進んでいるといえると国税不服審判所は考えているようです。

2.処理目標期間が「原則1年以内の事件処理」とされた経緯

「1年以内」としたことの背景としては、以下の状況があったと考えられています。

平成11年度から司法制度全般に関する改革が議論され、その中で裁判制度についても従来の審理期間(民事事件で平均20か月程度)を半減することを目標とすべきとする司法制度改革審議会意見書が平成13年6月に発出されました。

ちなみに、平成15年7月16日施行の「裁判の迅速化に関する法律」第2条において、「第一審の訴訟手続については二年以内のできるだけ短い期間内にこれを終結させ」と規定されています。

一方、審査請求は、簡易・迅速な手続により国民の権利救済を図るものであり、訴訟手続における審理期間と同等の審理期間を要するものとは認められないでしょうし、国税不服審判所の調査・審理においては、適正・公平のための様々な手続が法律で定められており、その遵守には一定の時間が必要である事情もあります。

また、上記の外部環境の変化から、事件ごとの処理目標を設定した事務計画を作成するなど、進行管理の充実の趣旨に基づき、従来にも増して事件の内容に応じた迅速な事件処理に努めることの機運が増すようになりました。

そして、平成13年度から、実績評価の「参考モニタリングの指標」が「審査請求の1年以内処理件数割合」と設定されたことも、「1年以内」としたことに影響があったものと考えられます。

3.1年かかる実際の事情

これをお話すると、決まって「そうはいっても時間がかかりすぎではないですか?」と問われます。

再調査の請求(異議申立て)であれば標準審理期間は3か月ですし、私が国税審判官に任官される直前にご挨拶した、税理士会のある支部の懇親会に来賓で来られた税務署の(国税不服審判所勤務経験のない)筆頭統括官は「事案によっては2週間くらいでできるもんじゃないんですか?」と軽口をたたいていたくらいです。

この点、例えば、移転価格税制等の国際事件については、一方の主張を相手方に示して反論の機会を確保するといっても、1か月程度の時間を要請されることがあり、1往復するだけで2か月ということもあります。

ただし、全件がそのようなヘビーな事案ばかりではなく、「過少申告加算税が課されない『正当な理由』の該当性」といった比較的軽い(審理範囲が狭い)事案については、主張整理についてさほど時間を要しません。

実際問題としては、以下のような国税不服審判所の内部事情が影響しています。
❶各地域審判所単位で決裁ルートは最終的には1本(所長は1人)であり順番待ちとなる
合議という性質上、構成員全員の合議の日程調整に苦労する
❸裁決書は書面であり、結論は同じでも理由の書きぶりに議論を割くことが多い

とかく官庁は「客を待たせる」のが常であり、それは国税不服審判所に限りませんが、担当審判官の心証としては、審理の初期段階で事実上決しているにもかかわらず、裁決書謄本の発送には10か月から1年を要してしまっているというのが実際の状況だと思われます。

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