【0073】納税者版「調査経過記録書」作成のススメ

1.調査経過記録書

調査官は、税務調査の一連のプロセスを「調査経過記録書」に記録しています。

「復命事項」として、要旨以下の内容が、時系列で、かつ、原則として箇条書きスタイルで記載されています。

そして、その横には「指示事項等」として、上司である統括官等による今後の方針等が記載されています。

 <必ず記載されている事項>
❶税務調査を実施する旨の納税者・税理士に対する通知
❷納税者・関係先その他の臨場事績
❸納税者・税理士との間の電話・文書のやり取り
❹調査結果の説明
❺修正申告書の提出又は更正決定の署内決議・処分通知書の発送

<場合によっては記載されている事項>
反面調査の依頼やその回答の回収状況
調査予告を省略できる場合に該当するか否かの署内の検討状況
❸署内の審理関係部署に対する照会の事績
❹更正決定に係る署内の会議が行われた旨

ちなみに、「その納税者が選定された経緯」が掲載されているものは私も拝見したことがありません。

なお、経過が長文に及ぶものについては、「調査報告書参照」として、その日付の「調査報告書」が作成されます。

2.調査官による調査経過記録書は絶対に正しいのか

経過記録である以上、発生した事実関係を正確に記載すべきですし、調査官(公務員)である以上、当然に要求されます。

しかし、調査手続違法が争われる事案を中心に、必ずしも正確な時系列に従って記載されていないことがあります。

例えば、今回の更正処分で論点となっている事項について、調査経過記録書上は臨場調査時に指摘したことになっているものの、納税者としては調査結果の説明時に初めて開示されたというケースもあります。

国税不服審判所に審査請求がなされると、却下にならない事案(実質審理される事案)については、ほぼ全件について、担当審判官がその処分をした税務署(国税局)の担当部署に臨場し、生の調査資料を拝見し、当然のように調査経過記録書も閲覧します。

しかし、原処分庁が「これが調査記録です」と担当審判官に交付した簿冊に編綴されている調査経過記録書が、本当にその日その日に記録された事項をその後の改竄なく蓄積しているかどうかは、正直なところわかりません。

なぜならば、審査請求がなされてから、担当審判官が職権調査を行うまでには一定の期間(2~3か月程度)があり、原処分庁としては当時の調査資料を再確認し、

・この文書は棄てよう
・新たに調査報告書をバックデートで作成しよう
・この文書は書き換えよう

という意思決定ができないわけではありませんし、仮にそのようにしたとしても、その変更履歴が担当審判官にはわからないからです。

かくして、担当審判官が拝見する調査資料は、税務署及び原処分庁の司令塔である国税局審理課の査閲を得た(きれいな)資料が供されることになります。

また、調査官は、納税者・税理士との電話のやり取りを「電話聴取(録取)書」にまとめていますが、これとて、録音したものを改めて聞きながら作成しているものではなく、調査官にとって都合の良い部分だけを残す、又は、納税者・税理士が言ってもいないことを、さも言ったかのごとく記載しているというケースが全くないとはいえません。

3.納税者側の調査経過を記録すべし

通常、余程の大企業を除き、税務調査の経過を納税者側が自主的に作成しているケースは殆どないと思われます。

ここでいう「税務調査の経過」とは、税務調査の時系列のみならず、

❶調査官からどのような質問を受けてどのように回答したか
❷調査官にどのような資料を提出したか
❸調査官との電話によるやり取り

などを指します。

本件の税務調査が揉めて更正決定処分を行い、これが不服申立てに発展した場合には、「我々が作成したこの調査経過記録書は絶対正しい」ことを前提に主張を展開してきますが、これに反論するためには、ただ、「その調査経過記録はおかしい」というだけでは説得力が乏しいとの印象を判断権者(国税不服審判所・裁判所)に与えることになります。

「事実は1つ」でありながら争訟の世界で「事実認定」というプロセスが存在するのは、当事者の一方又は双方が、1つであるはずの事実を自己に有利なように改竄又は評価するからです。

そして、公務員であるから絶対に「改竄又は自己に一方的に有利に評価しない」とはいえず、最終的には自らの組織防衛のためであればしないとは限りません

「調査経過」に関する争いが案外多く存在することを国税不服審判所で認識したからこそ、調査官が自らの防衛のためにしている調査経過記録について、納税者側も行うことによって、対等な立場で税務調査に対応することに供すると考えています。

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