【0074】現場の努力を無にする審理は要らない

1.審理専門官

今回は国税不服審判所という権利救済部署ではなく、権力行政である国税局・税務署の話になりますが、国税局・税務署には「審理専門官」という官職があります。

ポストの位置としては、税務職俸給表6級(税務署の統括官級)であり、これで1部門を構えることができます。

審理専門官ポストは平成13事務年度に新設され、大阪国税局では、局全体として「所得・法人・資産」に1人ずつ配置されました。

その初代の資産税の審理専門官から聞いたお話です。

その方は30数年間という長年の国税キャリアのうち20数年間が審理系統という方で、審理専門官の他にも、国税局課税部国税訟務官室の実査官や大阪国税不服審判所の国税審査官を経験されています。

2.審理系統は花形ではない

審理系統というポストは、国税局・税務署全体から見ると、必ずしも人気のある部門ではありません。

それは、出世ルートではないからであり、権力行政としては、やはり「課税・徴収」といった「取る側」の部門が花形ということになります。

むしろ、審理系統は、「本当にそれで課税して良いのですか?」と踏みとどまらせる役割を担うことから、課税・徴収系統の大多数の担当者からすると「せっかく俺たちが苦労して課税しようとしているのに、横から口を挟まれたために取れなかったじゃないか!」という印象を持ってしまうことが多いようです。

これは、実際に不利益処分がなされた後の権利救済機関である国税不服審判所の位置付けも同様であり、「せっかく俺たちが苦労して課税したのに、取り消しやがって!」という印象を持ってしまうことが多いようです。

これが影響してか、国税不服審判所に人事異動希望を出すのは「少し変わり者」という評価を受けることがあるほか、異動希望を出していないのに国税不服審判所に異動になると「俺、何か悪いことをしたのかな?」と不安になる(周囲から不安を煽られる)こともあるそうです。

これが審理系統の一般的な内部評価ということになるのでしょう。

3.アサーティブコミュニケーション

上記のような事情から、審理系統であっても、国税局・税務署の職員から一目置かれるようになるには、単に各系統(所得・法人・資産など)の知識・経験が豊富であるのみならず、課税・徴収しようとしている職員にとってプラスになる示唆が与えられなければならず、「こんな不十分な証拠では課税(徴収)できない」で話が終わるようでは評価されないことになります。

その方は、上司から「現場の努力を無にする審理なら要らないよ」と言われていたそうで、「この証拠では課税できない」に止まらず、「現段階で収集した証拠では課税することは難しい(課税したとしても不服申立てで取消される可能性が高い)が、この部分について『質問てん末書』が録取できれば証拠が補強されて課税できるのではないか(取り消される可能性が低いのではないか)」といった、まるでアサーティブコミュニケーションのようなアドバイスをすることで、税務調査の現場担当者から「大阪局で資産税審理といえばあの人」と言われるようになったのだそうです。

納税者からすると、「結局、審理専門官って中立でも何でもないじゃないか!」と言いたくなりますが、あくまで国税局・税務署の中の機構であり、権力行政の中である一定の影響力を発揮しようと思えば、やはり課税(徴収)する側に資するサポートができないと出世していけないのでしょう。

4.税理士における応用

実は、上記の考え方は税理士も同じではないでしょうか。

例えば、クライアントから「弊社についてこの税務上の優遇措置の適用ができないか?」と相談されたときに、「その事実関係では適用できません」と言うだけではそのクライアントからの信頼を勝ち取るのは難しいでしょう。

むしろ、「どうしても適用する申告をしなければならない事情があるならば、今からでもこの事実関係を付加することによって、100%大丈夫とは言えないけれど、適用できる可能性がある」といった一歩踏み込んだコメントができて(その実行が支援できて)こそ、クライアントはついてきてくれるように思います。

私は、むしろ税理士先生・弁護士先生からのこういった各種ご照会に対応するケースが多いですが、「あるべき」に拘泥しない「現実的な申告方針」の策定を意識してアドバイスしています。

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