【0103】国税不服審判所の具体的設置構想

1.税制簡素化についての第一次及び第二次答申

内閣総理大臣の諮問機関である税制調査会は、昭和41年度には、税制簡素化問題の検討のため、特別部会及び専門委員会を設けて審議を重ね、昭和41年12月に「税制簡素化についての第一次答申」を、昭和 42年12月に「税制簡素化についての第二次答申」を行い、その中で、納税者の不服申立てないしは権利保護制度の在り方を税制簡素化の残された重要な課題であるとして掲げ、これについては別途答申することとされました。

2.税制簡素化についての第三次答申

昭和43年7月、税制調査会は、政府に「税制簡素化についての第三次答申」を提出し、答申を行った背景について次のように述べています。

・社会、経済の複雑化を考えるとき、納税者の個別性に応ずる問題の解決をすべて法令や通達等の規定にとり込もうとすることは、かえって法令等の複雑化を招くことになりかねないであろう。
結局、重要なことは、納税者が新しい問題の起こるつど、自らの立場や個別事情を申し立て、納税者と税務当局が腹蔵なく相互に意見をかわし、問題を正しく、かつ、迅速に解決しうるような環境を整備することであり、そのための制度を確立してはじめて、真の納税者の個別性と自主性とを尊重することが可能になるものと考えられる。

・確かに、納税者の不服をききその正当な権利を救済するための特別の部局として協議団を国税局内に設けるという考え方は、当時において極めて革新的なものであったし、現在においてもなおその意義を失っていないことは疑いをいれないところであろう。
しかしながら、協議団が国税局長の下に置かれているため批判を生み、権利救済制度として必ずしも万全なものといい難い面があることは否定できない。
さらに、戦後20有余年を経て、社会、経済も安定し、民主的納税制度も定着してきた現在、当調査会は、現行の不服申立制度の全般にわたって、新しい社会、経済と納税秩序とに応じて見直しを行うべき時期であると考えた。

このような背景に基づき、税制調査会は、協議団に代わる新しい審理・裁決機構としての「国税不服審判所」(仮称)を国税庁の附属機関として設けることを答申しました。

3.国税不服審判所の位置付け

税制調査会は、答申の中で、国税不服審判所を税務当局から完全に独立した第三者機関としてではなく、国税庁の附属機関として設けることとした理由についても述べています。

・(略)これに対し、租税は、特に広範かつ密接に国民の権利に影響するものであるから、特別な配慮を払う必要があり、税務当局から完全に独立した第三者的な裁決機構を設けるべきであるとする意見もある

・この問題は、我が国の行政、司法制度全般のあり方との関連で考えざるを得ないが、我が国の憲法上の建前から、租税のための特別裁判所を設けることは許されない。

・特別裁判所の形式をとらず、完全に独立した準司法機関を設置するとの考え方もあるが、三審級からなる司法救済に加え、行政段階にそのような機関を設けることは、重複の弊を免れず、また、このような機関の裁決を経たのち、司法段階において、直接、高等裁判所に出訴できるものとすることも、将来はともかく、現行の行政、司法制度のあり方からみて実現困難であり、税務当局から完全に独立した第三者機関を設けることは適当でないとの結論に達した。

・ふり返って、現在の協議団は、国税局長の指揮下にあり、かつ、国税局長が裁決権を保持している以上、公正な裁決として納税者の納得を得ることは難しいという批判がある。

・また、国税局長の指揮下にある以上、通達に拘束されることなく判断を下すことは困難であるという問題がある。

・このような問題は、協議団が国税局長の下に置かれていることに基因するものであるので、特にその点について現在の制度にとらわれることなく可能な改善策を検討した。

・しかし、不服の審理・裁決機構を国税庁長官からも切り離すことは、上記の問題があるほか、税務当局と不服の審理・裁決機構の双方を通じて納税者の取扱いに差異を生ずるようなことは、行政機関による救済のあり方及び行政の統一ある運用という観点から適当でないと考える。

・したがって、税制調査会は、上記のような総合的検討の結果として、国税庁の附属機関として、自ら裁決権を有する国税不服審判所を設けることを適当と考えた

4.国税不服審判所制度の具体的構想

第三次答申は、原則として、今後も異議申立制度は維持するとした上で、国税不服審判所制度の具体的構想を示して、その早期実現を政府に希望しています。

❶国税に関する審査請求の裁決機関として国税不服審判所を国税庁の附属機関として新設し、従来、国税局長及び協議団が審理・裁決していた審査請求等の事案の処理を行わせる。
❷国税不服審判所は中央に置くこととし、所要の地に地域担当審判官を常駐させ又は派遣する。
❸国税不服審判所には、所長のほか、国税審判官、国税副審判官等を配置し、国税審判官については、 民間からの任用の道も開く。
❹国税不服審判所は、国税庁長官の行った既往の法令の一般的な解釈と異なる裁決をすることができるが、この場合又は既往の通達で予想していない新たな事例で将来の税務行政の先例となるような裁決をする場合は、あらかじめ意見を付して国税庁長官の指示を求めるものとする。
❺国税庁長官は、上記の指示を求められた場合は、国税審査会(仮称)の意見を求めることとし、国税審査会は、国税庁長官が任命する学識経験者からなる諮問機関とする。
❻審査請求の審理は、担当審判官及び参加審判官の合議により、請求人の主張を中心として行うが、原処分の見過ごしていた事実を発見したときは、それも審理の基礎とし、請求人の主張には制限されないものとするが、裁決による不利益変更はできない。
国税審判官等に質問、検査等の調査権を与える。
❽審査請求人又は処分庁が質問や証拠書類等の提出の求めに応じないため、当該事案の実態を明確にすることが著しく困難となった場合には、その点に関しての請求人又は処分庁の主張を採用しないことができる。
裁決結果は、原則として非公開とするが、先例となるような裁決等は、納税者の秘密保持の見地を尊重しつつ公開することを考慮する。

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