【0088】審判官の心証は早い段階から決まっている

1.審査請求は相撲に例えられる

私は、税理士会などの団体に講演にお伺いして国税不服審査制度を解説するときに、審査請求を相撲に例えることが多いです。

「争点」という土俵を設定し、東西双方から原処分庁と審査請求人が上がり、審判官という行司が立会を合わせて、「主張」というお互いの取り口を確認し、勝った方に軍配を挙げることになります。

言葉にするとただこれだけですが、審判官という行司が検討すべき点はいくつかあります。

2.「争点」と双方の「主張」整理

「争点」については、課税要件に該当するか否かを判断する最低限の範囲を画して設定しなければなりません。

例えば、「重加算税の課税要件に該当するか否か」では、国税通則法68条1項の「納税者が」が問題であるのか(例えば、経理部長がした隠蔽仮装行為が納税者である法人の行為であるのか否か)、「隠蔽し、又は仮装し」が問題であるのかがわかりません。

また、争点に対する双方の主張について、違いが明確になるように双方の取り口を把握しなければなりませんが、一方のみが主張して、相手方は主張していないといった状況では取組になりませんので、相手方にも主張させて、いわば土俵の中の立会の位置に着かせる必要があります。

行司によるこういった一連の取組に対する行動は、審査請求でいう「主張整理」をしていることになり、軍配を挙げるためにはこういった争訟指揮能力が必要となります。

3.理屈は後から貨車で3杯付いてくる

相撲では、実際に双方が相撲を取ってみて、一方が俵の外に出るとか足の裏以外の場所が土に着くといった客観的な事象によって勝敗が決しますが、審査請求ではそういった事象が双方及び観客に見えることはなく、審判官による「こちらの方が強かったな」という心証によって軍配を挙げることとなります(そういう点では、相撲よりも柔道やボクシングの判定に類似しているかもしれません)。

そして、客観的な事象が双方及び観客に見えない代わりとして、軍配を挙げた理由を書面で示すことになりますが、実際に担当審判官として争訟指揮を担当した者の経験に照らせば、判定する側の心証は、争訟の割と早い段階で決まっていることが多いといえます。

そして、いずれか一方を勝たせるために、勝たせる側の強い取り口や負けさせる側の弱い取り口を敢えて探して、軍配を挙げた理由に表現することがあります。

これは審査請求に限らず、訴訟においてもこの「初めに結論ありき」がみられ、裁判官は当然心証の傾いた方を勝たせますので、勝たせるための理屈を後付けする傾向があり、これを称して「理屈は後から貨車で3杯付いてくる」という格言もあるくらいです。

この「裁判官(審判官)はこういった事情で一方を勝たせたかった(もう一方を負けさせたかった)のだな」と気づけば、判決(裁決)の理由の説示に対する疑問がある程度解けます。

4.争訟はスタートが大事

そうすると、税務争訟に限らず、原告(審査請求人)による訴状(審査請求書)の記載がまずもって大事であり、その最初の主張書面を読んだ判断権者の第一印象が判決(裁決)に少なからずの印象を与えているのではないかと推察されます。

これは単に主張書面の記載ぶりの問題のみならず、これまでの事実関係が訴状(審査請求書)のみで理解できるように書かれている(事案の概要を把握するための情報が他の書面に分散していない)といった判断権者の審理に配慮した姿勢も必要ではないかと考えられます。

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