【0050】答弁書期限

1.答弁書期限の「3週間」延長依頼

4月10日頃になると思い出す大阪国税不服審判所内の出来事があります。

審査請求書が提出されると、原処分庁(処分をした税務署長)宛に答弁書の提出を求めます。

通常は、「審査請求を棄却する旨の裁決を求める」の結論が表紙に書かれ、その理由が、事実関係とともに次頁以降に記載されます(長いものになると何十頁にも及びます)。

現在は取扱いが異なるのですが、当時の国税不服審判所の運用としては、事前に異議申立て(現在は再調査の請求)を経ていない事案であれば、原処分庁による再検証がなされていないことから、3週間程度の猶予を与え、異議申立てを経ている場合には、「異議決定書」を書けるだけの再検証をしているはずなので、2週間程度の猶予を与えて答弁書を提出させることになっていました。

私の担当した資産税関係事案で、4月10日(当時金曜日)に原処分庁に答弁書要求をしたことがありました。

異議申立てを経た事案であり、4月24日(当時金曜日)を期限としました。

すると、原処分庁の不服申立て担当の上席調査官から、「期限を5月15日(当時金曜日)まで『3週間』延長してほしい」という依頼がありました。

私は、電話を置いて、思わず「やっぱりな~」と呟いてしまいました。

2.原処分庁側の事情

答弁書に限りませんが、審判所から原処分庁に主張書面の提出依頼をすると、原処分庁は、まず、署の不服申立て担当の上席調査官が素案を起案し、国税局の審理課(不服申立て担当)にレビューを依頼しますが、その上席調査官が主張書面を書き慣れているとは限らず、審理課の主査とその補佐である実査官が手取り足取り教えるか、審理課で全面書き換えをすることになります。

そして、審理課内で、審理課長ないし審理官の了解を得た原案を署に返戻し、担当副署長・署長にレクチャーして署長決裁を得たものが、やっと国税不服審判所に送られてきます(署長・担当副署長に国税不服審判所などの審理系経験者が居れば、決裁に難渋するとも聞きます)。

原処分庁は、当然ながら組織として動いており、具体的にはこれだけの人数を経ることになりますので、ゴールデンウイーク前後にこの決裁ラインの誰かが休暇を入れていれば、答弁書の作成工程はストップします。

特に、署長は、年次(有休)休暇を取得して、ぶち抜きでゴールデンウィーク中休暇を取得していることが多く、本件で、決裁ラインの休暇予定を睨み、2週間の期限に対して3週間の延長を打診してきたのでした。

3.「答弁書の催促について」

私の隣の国税審査官は「まぁ、この時期はみんな順番で休んで行くものですからしょうがないんじゃないでしょうか。」と言ってきますし、いくら民間出身の国税審判官だからといって、硬直的に「期限までに答弁書の提出がなければ、原処分庁による答弁はなかったものとして審理する(事実上、課税処分を取消しする)!」と言い放つと、おそらく国税不服審判所内で大問題になるので、結果的には、その要請を受け入れざるを得ませんでした。

しかし、ただ受け入れただけでは、今度は、審査請求人に対して面目が立ちません。

なぜならば、「原処分庁には3週間も期限延長を認めて、なぜ、こちらには(その後の反論書の)期限延長を認めないのか。審判所は中立公正に審理すべきであるのに、原処分庁だけ優遇するとは、やはり『同じ穴のムジナ』ではないか」との誹りを受ける可能性があるからです。

そこで私が採った方法は、事実上3週間の延長を認めつつ、原処分庁に対して「答弁書の催促について」という督促文書を担当審判官名で発することでした。

本来は、証拠の提出が遅延した場合に発する「書類の催促について」という審判所様式を加工したのです。

その様式の末尾には、「なお、提出がない場合には、その書類がなかったものとして審理します。」という1文があるのですが、さすがにそれは削除しました。

これでさえ、上述の国税審査官からは、「自分が将来戻る課税庁にケンカを売っているようなものであるため、そんな文書を発してほしくない」と言われたのですが、最終的には押し切って原処分庁に発することにしました。

担当審判官名の発遣文書は、原処分庁(税務署長)に視閲されるので、担当審判官からの「そんな期限延長を簡単に許しているのではない!」というメッセージを伝えたかったのです。

国税不服審判所は、判断機関ではあるものの税務行政部内であるという立ち位置の微妙さを感じた出来事でした。

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