【0046】裁決固有の瑕疵

1.国税不服審判所が訴えられる?

現在は、税務署長等から不利益処分(原処分)を受けてから直接、国税不服審判所に審査請求することができますが、平成28年3月までは原則として異議申立て(現在は再調査の請求)を経ることになっていました。

納税者が国税不服審判所に対して審査請求書を提出される時点において、その直前にあった出来事は、異議審理庁から異議決定書を送達されたことになり、その内容に不服があるから審査請求に及んでいるのはわかるのですが、審査請求書の「審査請求の理由」欄に、異議決定書の反論が羅列されているものを多く見かけました。

しかし、納税者が取消しを求める対象は原処分であって異議決定ではありませんので、「お気持ちはわかりますが、改めて原処分を取り消すべき理由を主張してください。」と審査請求人(代理人)に頻繁に申し上げていました。

これは国税不服審判所の上位に位置する裁判所も同様で、あくまで原処分の取消しを求めて税務訴訟に及ぶべきであって、裁決の取消しを求めてもそれだけでは原処分は覆りません。

それでも、国税不服審判所長による裁決そのものを取り消すべきとの訴訟が提起されることはあり、その場合には国税不服審判所の訟務担当者が当たることになります。

私が国税審判官に任官されていた当時の大阪国税不服審判所においても、裁決固有の瑕疵を問われた訴訟が係属されていましたが、法規審査担当の裁判官出身の国税審判官と国税プロパー職員の国税審査官が訟務担当者として従事していました。

2.裁決固有の瑕疵の類型

国税不服審判所が関連する訴訟としては、民事訴訟としては「国家賠償訴訟」などがあり、行政事件訴訟としては「裁決取消訴訟」「裁決無効確認訴訟」「不作為違法確認訴訟」などがあります。

国家賠償訴訟は、たとえば、国税不服審判所職員から暴言を受けたなどの理由に拠るものですが、やはり裁決取消訴訟が典型ではないかと思います。

裁決固有の瑕疵は、大きく以下の類型に分類されます。
・裁決庁の瑕疵(裁決権限のない者による裁決)
・審理手続の瑕疵(閲覧請求や口頭意見陳述の機会を与えなかったなど)
・裁決内容の瑕疵(不利益変更の禁止規定に違反した裁決)
・裁決形式に瑕疵(理由附記を欠いた裁決など)

3.訴訟の状況

具体的な数字は把握していませんが、国税不服審判所が創設されてから現在に至るまで、第一審ベースで500~600件の訴訟が提起されていると聞いたことがあります。

しかし、その多くは、取下げという形で終結しているそうで、これは、裁決取消訴訟を提起しても原処分が取り消されるわけではないことを理解して取り下げるのだそうです。

それでも、国税不服審判所の長い歴史の中で、国税不服審判所が敗訴した事例は、各審級を累計して5件ほど存在し、最終的に敗訴が確定した事例も2件ほどあると聞きます。

その2件は、いずれも不服申立期間に係るもので、国税不服審判所としては期限徒過で却下した裁決が裁決固有の瑕疵によって取り消されたものです。

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