【0239】審理手続を経ないでする却下裁決

1.国税通則法の規定

国税通則法第92条は、国税不服審判所長が第91条(審査請求書の補正)の規定により不備の補正を求めた場合において、審査請求人が相当の期間内にその不備を補正しないとき、審査請求が法定の期間経過後にされたものであるときその他審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなときは、いわゆる本案審理に入ることなく、審査請求に理由があるかないかの審理をしないでする応答として、却下の裁決がなされる旨を規定しています。
また、審査請求が不適法であるかぎり、たまたま審査庁が本案審理に着手した後においても、却下の裁決をすることができます。
同条は、行政不服審査法第24条に相応する規定です。

2.却下の意義

却下は、審査請求が適法に提起され受理すべきものであるか否かの審理の結果、審査請求の提起が法定の期間経過後にされたものであるときその他不適法であることが判明したときに行う本案審理を拒絶する裁決の種類です。
裁決の方式については、取消しや棄却などが規定されていますが、却下の裁決は、当該審査請求が不適法であるとしてその後の実質審理を拒否する判断であるため、原処分庁に対して答弁書の提出を要求する必要もなく、担当審判官や参加審判官の指定の必要もありません。
したがって、却下の裁決が担当審判官らの議決に基づいてされるということもありません。
また、担当審判官に対して行う口頭による意見陳述の申立てや補佐人の帯同許可の申立ては、不服申立ての理由を可及的に明らかにするために設けられている制度であるため、これらが形式審理に適用される余地はありません。
なお、例えば請求人が法定の審査請求期間内に審査請求をしなかったことについてのやむを得ない理由のあることを審査請求書に記載しないまま期限後に審査請求をし、かつ、この点について特に意思表示がなされなかった場合において、審判所長は直ちに期限を徒過したものと認定して却下裁決をしてよいのか、それともこの点についての請求人の弁明ないし主張、立証について釈明を求めるべきなのか、という問題については、下記の考え方に基づいて処理されることになります。

「職権主義の下においての事実関係の証拠による確定の要否は、請求人が審査請求書にやむを得ない理由の存することについて記載した場合と否とによって左右されるものではなく、形式要件の具備の有無は職権で調査、認定されなければならないところ、当該理由があれば格別の手続を経ずして当然に審査請求期間が延長されると解されること、当該理由の内容は請求人の主張によって初めて判明する性質を有すること、行政訴訟で当該理由が認められ却下裁決が取り消されれば、審判所長は本案審理を行って、再度、裁決を行うべきこととなり、簡易迅速処理の理念に反すること、当該理由の有無に関する調査は一般に容易に行い得るものであること(形式要件の調査に罰則付きの調査権を規定していないのは、この理由によるものと思われる)および前述の争点主義的運営は形式審査の分野にはなじまないことなどにかんがみると、請求人に対し何らの弁明ないし主張・立証について釈明を求めることなく、やむを得ない理由を認定し却下裁決を行うことには、形式要件の審理不尽の疑いのおそれがあると考える。」(竹内康尋「国税不服審査手続と主張・立証および閲覧請求の時期等について」税理27巻2号117頁)

3.却下に該当する事由

審査請求が不適法であるときは、却下裁決がなされますが、これに当たるものとして、例えば、次のものがあります。
❶審査請求の対象が処分でないとき。
❷審査請求の対象となった処分が審査請求をすることができないものであるとき。
➌審査請求の対象となった処分が存在しないとき。
➍審査請求の対象となった処分が審査請求人の権利又は法律上の利益を侵害するものでないことが明らかなとき。
❺審査請求の対象となった処分について、既に国税不服審判所長の裁決(却下の裁決を除く。)がされているとき。
❻審査請求人が行った再調査の請求が不適法であるとき。
❼審査請求が法定の審査請求期間経過後にされたことについて正当な理由がないことが明らかなとき。
❽審査請求の対象となった処分について、審査請求人が直接自己の権利又は法律上の利益を侵害された者でないことが明らかなとき。

なお、❻に関連して、再調査の請求が不適法として再調査決定により却下されたときは、その後にされた審査請求も、不適法となります。
もっとも、本来適法な再調査の請求を誤って再調査決定で却下したときは、適法に再調査の請求があつたものとして評価されます。
これは、再調査の請求そのものが適法だからです。
すなわち、再調査の請求が適法であるか否かは、当該再調査の請求についての決定のいかんにより決せられるものではなく、専ら、再調査の請求が客観的に適法かどうかにかかる問題であるからです。
また、審査請求書の記載事項としての審査請求の趣旨又は理由の記載の程度につき、国税通則法第87条第3項の規定に従っていない場合には、補正の求めの対象となりますが、その点が補正されなかったとしても、そのことだけで却下事由には当たりません。
それは、国税に関する法律の規定に従っていないことを意味しますが、その故に不適法とまではいえないからとされています。
しかし、これらの必要的記載事項を全く欠いている場合において、この点に関する補正要求に応じないときは、不適法になることから却下事由に該当することになります。

4.却下裁決の効果

却下の裁決は、本案判断を拒絶するものですので、審査請求の対象となった原処分についての取消訴訟との関係において、適法に審査請求を経ていないのですから、不服申立前置の要件を満していないこととなります。
この場合、不服申立前置を満たしたかどうかの基準は、二審的審査請求の場合における再調査の請求と同様に、客観的に審査請求を適法に経由したか否かにより決せられることになります。
すなわち、かなりレアケースになるものの、適法な審査請求を誤って不適法としてした却下の裁決がなされたとしても、不服申立前置を満たしているものとされますが、不適法な審査請求を看過してした本案審理は、それ自体不服申立前置を満たしたことにはならないとされています。

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