【0219】口頭意見陳述の留意点(その1)



1.口頭意見陳述とは

口頭意見陳述は、書面による主張を補う観点から、審査請求人又は参加人に原処分の取消しを求める理由を口頭で補足させること、また、原処分の法律上及び事実上の根拠に関する質問、回答を通じて、攻撃防御の対象を明確にすることで手続保障の機会の充実を図ることを目的とするものです。
したがって、担当審判官は、この制度の趣旨に沿い、かつ、調査及び審理を尽くす意味からも、口頭意見陳述の場においては、請求人又は参加人に意のあるところを十分に主張させるよう努める必要があります。

2.申立てがあれば機会を設定しなければならない

国税通則法第95条の2第1項は、請求人又は参加人の申立てがあった場合には、担当審判官は、当該申立てをした者に口頭で審査請求に係る事件に関する意見を述べる機会を与えなければならない旨を規定しており、また、同条第2 項は、口頭意見陳述に際し、申立人は、担当審判官の許可を得て、事件に関し、原処分庁に対して、質問を発することができる旨を規定しています。
そうすると、口頭意見陳述及び原処分庁に対する発問の機会は、原則として(繰り返しの陳述や審理の阻害になるような場合を除き)、申立人に付与しなければなりません

3.書面審理と口頭意見陳述

書面審理は、簡易迅速性、資料の明確性等の面で長所を有する一方で、印象が間接的であることや真実が正確に書面に記載されているとは限らず、釈明により疑問点を明確にし得ないこと等の短所を有するといわれています。
すなわち、書面審理の長所は口頭審理の短所であり、書面審理の短所は口頭審理の長所と裏腹な関係にあります
担当審判官が行う調査及び審理は、書面審理が原則です。
平成26年改正前の国税通則法では、口頭意見陳述は、請求人と原処分庁が担当審判官の前で攻撃防御を行うという対審的構造まで保障するものではなく、口頭意見陳述の機会も、実際には、担当審判官が請求人の主張を聴いて記録にとどめるものであったため、対審構造を採る訴訟とは大きな差があるとされてきました。
これに対し、平成26年改正法では、口頭意見陳述は、全ての審理関係人を招集してさせるものとする旨規定されるなど、対審的構造が一部導入され、申立人は原処分庁に対して質問を発することができるものとされました。
なお、質問は許可制とされていますが、これは、請求人の無関係な質問や繰り返しの質問が行われた場合にこれを認めないことができるようにするためであり、質問を行う旨の申立てがあった場合には、担当審判官は、原則として、事前に質問概要を把握した上で許可すべきものとされています。

4.口頭意見陳述の申立てができる者

口頭意見陳述の申立てができる者は、請求人又は参加人(それらの代理人を含む。)に限られます。
また、請求人が希望していないのに、担当審判官の職権で行うことはできません。
口頭意見陳述の申立てがあった場合には、担当審判官は、原則として申立人に対し口頭で事件に関する意見を述べる機会を与えなければならないのであり、口頭意見陳述に代えて他の手続(請求人面談や同席主張説明等)を行うよう誘導することもできません。
ただし、際限なくこれを認めることは、迅速な審理の妨げになるだけではなく、公正な審理に資するものではないことから、一度その機会を与えた後は、再度その機会を与えることに特段の理由がない限り、その機会を与える必要はないとされています。
例えば、再度の機会を与える例としては、口頭意見陳述が実施されて後、新たに争点化された主張等に関して意見を述べる場合などが考えられます。
なお、代理人によってされた意見陳述の効果は、申立人本人に帰属しますので、申立人本人から改めて口頭意見陳述の申立てがあったときは、代理人によってされた意見陳述と重複しない限度でこれを行わせることになります。

5.口頭意見陳述の実施方法が問題となった裁判例

口頭意見陳述の実施方法が問題となった裁判例に、熊本地裁平成7年10月18日判決があります。
これは、請求人らが口頭意見陳述を申し立てたのに、担当審判官がその機会を与えないまま裁決したことには、重大かつ明白な暇疵があるとして、その取消しが求められた事件です。
この事件は、請求人が同人及び代理人ら合計9名が同時に臨席する方法での口頭意見陳述を求めたのに対し、担当審判官が3名ずつ3回に分けて聴取を行う旨通知したところ、請求人が9名全員一堂に会しての意見陳述に固執して、結局、口頭意見陳述が実施されないまま、裁決(棄却)がされたものです。
なお、会場として指定された審判所の会議室は、9名全員の収容が可能であるとされつつも、本件の決定は、担当審判官の合理的裁量の範囲内であるとして棄却されました。

6.上記裁判例の判決要旨

「法が口頭意見陳述権を認めた趣旨は、請求人の手続的権利を保障することによって、職権審理の専断を防止し、また、審査請求の審理が書面審理を基調としつつ、口頭意見陳述をさせることによって、書面のみでは十分にその意を尽くせないところを補充させ、もって、公正な審理に資するためであると解すべきである。しかしながら、口頭意見陳述の方式については法は何ら規定を設けていないことに鑑みるならば、いかなる方式でそれを実施するかは、右制度の趣旨、目的に反しない範囲で事案の審理に当たる審判官の合理的裁量に委ねられているとみるべきであり、ただ、口頭意見陳述の機会を与えたとしても、申立人にとって意見陳述が不可能に等しい機会を与えた場合のように、審判官が右裁量の範囲を逸脱したと認められるときは、審理手続は違法となり、裁決も取消しを免れないというべきである。」
なお、上記の判決は、 口頭意見陳述の場に原処分庁が招集されない平成26年法改正前の事例です。
現在は、担当審判官が、意見陳述の機会を与えないか、又は申立人にとって意見陳述が不可能に等しい機会を与えたことにより、その陳述が行われないままされた裁決は違法となることに留意する旨は通達において定められており、今後、口頭意見陳述に原処分庁が招集され、また、発問権が行使される場合にあっては、複数回に分けて実施するかどうかについて慎重に検討されることになると考えられます。

7.口頭意見陳述に同席する代理人の数の制限についての判決例

旧異議申立てに係る調査における口頭意見陳述に同席する代理人の数が制限されたことについて、名古屋高裁金沢支部平成20年3月26日判決は、「一度に同席させる代理人の人数を制限させることが直ちに、職権審理の専断を防止して書面のみで十分に意を尽くせないところを補充させて公正な審理に資するという口頭意見陳述の趣旨に反するものとは認め難いから、複数の代理人が同席することを制限したことをもって、裁量権の逸脱があったということはできない。」 と判示しています。

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