【0206】新たな裁決書方式(その2)



1.「当審判所の判断」欄

【0205】に引き続き、平成28年から採用されている新しい裁決書様式の骨格について解説します。
「当審判所の判断」欄の記裁順序の基本形は次の二つですが、選択に迷う場合は、法令解釈先行型を採用して差し支えないとされています。
法令解釈先行型:①法令解釈、②認定事実、③当てはめ
認定事実先行型:①認定事実、②法令解釈、③当てはめ
認定した事実を単に法令に当てはめることにより結論を導き出せる事件(いわゆる法令解釈をするまでもない事件)にあっては、法令解釈を記載する必要はないとされています。
この場合には、「認定事実」欄及び「当てはめ」欄を分けずに、「検討」欄又は「争点○について」欄を設けて記載する方法でも差し支えないとされています。
法的三段論法に基づく判断過程の記載量が少なく、「法令解釈」欄、「認定事実」欄、「当てはめ」欄に分けずにまとめて記載した方が分かりやすい場合は、「検討」欄又は「争点○について」欄を設けた上で、その中で法的三段論法に基づく判断過程を一括して記載することとして差し支えないとされています。
「法令解釈」欄や「当てはめ」欄において、「関係法令(等)」欄に記載した関係法令や「争点についての主張」欄に記載した当事者の主張を再掲する場合、従前に記載した内容をそのまま記載することは差し控え、例えば、関係法令については、「上記○のとおり規定しているところ」と、当事者の主張については、「上記○のとおり、○○○(要約したもの)と主張する」と記載することになります。

2.「認定事実」欄

当事者間において争いのある事実について、審判所が証拠に基づいて認定した事実を記載する欄ですので、その冒頭において、証拠の出所(審理関係人が提出した資料や審判所が職権で収集した資料など)をまとめて記載するのが望ましいとされています。
その上で、重要な認定事実について当事者の主張が対立しているような場合には個別に具体的な証拠を摘示し、場合によっては、「認定事実」欄以外に別欄を設けて証拠の中身を記載することもあります。

3.「当てはめ」欄

「基礎事実」欄等に記載した内容を引用する場合には、項目付番を記載します。
そして、その際の記載方法としては、例えば「1の(1)のイのとおり」又は「1(1)イのとおり」などが考えられるところ、いずれの場合でも裁決書内で記載方法が不統一にならないようにします。

4.「原処分の適法性について」欄

裁決書の主文が「棄却」の場合には、原処分が争点以外の要件を充足していることを記載した上で、 原処分が適法であることを示すための欄です。
なお、1通の裁決書の中で複数の処分を判断する場合は、各処分について適法性の判断を示すことになります。
課税事件にあっては、別表等を活用するなど原処分に係る税額が審判所認定額の範囲内であることを示すなどして、争点以外の課税要件を充足している事実を簡潔に記載し、徴収事件にあっても、争点以外の要件を充足していることを簡潔に記載します。
次に、審判所の審理では、当事者間で争点となっていない事項についても一応の審理をしなければならないことから、原処分について、争点以外の要件のうち上記で示した税額等の他に、例えば、理由の提示(理由付記)の妥当性や原処分が手続上の要件も充足していることなどを判断の締めくくりとして包括的に示すのが通常です。
したがって、原処分が税額等から要件を充足している旨の記載に続けて、「原処分のその他の部分については、審査請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない」と記載します。
なお、裁決書の主文が「全部取消し」の場合には、原処分が要件を充足していないことにより、その全部を取り消すものですので、この記載は行いません。

5.最高裁判決の引用

最高裁判決の参照を指摘する場合には、「(最高裁平成○年○月○日第○小法廷判決・民集○巻○号○頁参照)」のように記載し、出典も明記します。
また、判決を引用する場合は、引用箇所をかぎ括弧でくくって示すことになります。
なお、下級審判決は、審判所としての判断の表現としてその文言表現を拝借することはあっても、それが具体的な下級審判決であることを示して引用することは通常はないと考えられます。

6.「失当」という言葉を遣うか否か

ちなみに、「失当」の言葉の意味は、「当を得ていないこと」というものであり、訴訟の場面では、主張とし て当を得ていないという意味で、主張すること自体を否定するニュアンスを持っています。
しかし、審査請求の審理において、当事者から主張があった場合、要件事実に従って適切に主張を整理して判断していくべきであり、主張すること自体を否定するような「失当」という言葉を裁決書に記載することは不適当であり、このような場合は、例えば「請求人の主張の事実が認められたとしても上記結論を左右するものではない」又は「請求人の主張は、上記結論を左右するものではない」などのように記載するのが望ましいとされています。

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