【0205】新たな裁決書方式(その1)

1.新たな裁決書方式導入の経緯

裁決書は、審査請求人に対する応答であるとともに、後述する開示請求や裁決事例の公表などを通じて広く国民に周知されるものですので、その記載方法については常に見直しを行い、裁決書の質的向上を図る必要があると国税不服審判所は考えています。
このような問題意識の下、平成28年に、簡潔・明瞭な裁決書の実現に資するため、最高裁判所の判決や権威ある第一審判決における理由の書き方に倣いつつ、国税不服審判所における職権探知主義等の特有の手続、争点中心の審理といった運営上の特性に合わせて若干の修正をして、裁決書の記載方法を見直しました。
具体的には、当時の国税不服審判所本部所長であった畠山稔さん(司法修習36期・高松地裁所長の後に東京高裁部総括判事をもって平成31年2月12日に定年退官)が提唱され、各支部(地域国税不服審判所)の事務視察の際にもその趣旨に関する講話を行われていた記憶があります。

2.「事案の概要」欄

裁決書の冒頭において、事件の全体像を把握するために設けられているものであり、できる限り簡潔に記載するのが望ましいとされています。
この項における略語の定義は、 極力最小限(原則「審査請求人」のみ)に止めています。
この場合、一般的に実務で使用されている文言については条文を示すことなく記載し、定義は「関係法令(等)」欄以降におくこととして差し支えないとされています。
また、処分が複数年分にわたるものであっても、「各更正処分」ではなく、単に「更正処分」と、また複数税目や更正処分と賦課決定処分が争われているものは「等」を使用することとして差し支えないとされています。

3.「関係法令(等)」欄

記載順序は、法体系や法構造を意識して論理的に決定するのですが、争点の判断に必要のない条文等は記載しないのが望ましいとされています。

4.「基礎事実」欄

従来は、「以下(次)の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。」と記載していましたが、「請求人と原処分庁との間に争いがなく」という部分は、今後、記載しないことを原則とし、例えば、「当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下(次)の事実が認められる。」と記載します。
なお、「基礎事実」欄に記載した事実は、当事者間に争いがないか又は本格的に争っていないことが前提であり、証拠の出所までは記載する必要はないとされます。
また、課税要件事実など判断に必要な事実や事案あるいは双方の主張を理解する上で前提となる事実のうち、当事者双方に争いがない事実や証拠から容易に認定できる事実を記載することとなりますが、その際、争点の判断にも使用する事実については、事案に応じて、「認定事実」欄に再度記載するか、「当てはめ」欄において「基礎事実」欄に記載した内容を引用する形で記載することになります。
ちなみに、略語を定義する際には、例えば「本件年分」と「本件各年分」のように誤解を招く可能性のある略語を併用しないよう工夫しています。

5.「審査請求に至る経緯」欄

従来は、全てを別表形式に委ねる方法を採用しているものが多々見受けられたところ、今後は「基礎事実」欄から「審査請求に至る経緯」欄まで、事実を時系列に記載することにしたことにより、別表を使用する場合には、申告年月日や処分年月日を本文中に記載した上で、申告内容及び処分内容を別表に記載する形式とするのが望ましいとされています。

6.「争点」欄

複数の争点がある事件については、手続に係る争点から実体に係る争点の順に記載するなど、論理的順序に従って整理して記載するのが望ましいとされています。

7.「争点についての主張」欄

当事者の主張をそのまま記載せずに、簡潔明瞭に取りまとめた上で記載するのが望ましいとされています。
「争点の確認表」を送付する段階で、当事者から、主張を要約することなくそのまま記載するよう求められた場合は、双方の主張の対立点を明確にし、争点を確立するため、主張の要旨が記載される箇所である旨説明し、理解を求めることになります。
また、主張の根拠となる証拠や供述の内容に係る記載は行いません。
なお、別紙によらず、本文中に記載するのが望ましいとされています。
両当事者の主張を左右に対比させる表形式を採用するか否かについては、内容の複雑さ、読みやすさなどの観点から検討することになりますが、仮に争点が一つであっても、主張のポイントが複数あり、各ポイントについて主張を対比させたほうが分かりやすい場合には、表形式で表示するのが望ましいとされています。

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