【0019】課税負担の錯誤

1.課税負担の錯誤とは

民法95条規定の「錯誤」、特に「課税負担の錯誤」についてお話しします。

「課税負担の錯誤」というと、何か遠い裁判の世界の言葉のようで、自分には関係がないと思われるかもしれませんが、ありていに言えば、「『そんなに税金がかかるのだったら、こんな取引しなかったよ』という言い訳が税務署に対して通用するか」というお話です。

税理士(公認会計士)の思考からすると、「そんな言い訳は通用しないだろうな。通用したとしても申告期限内くらいだろうな。」というところであり、実際にその見立てのとおりで差し支えないのですが、「課税負担の錯誤」を容認した最高裁判決(平成元年9月14日第一小法廷判決)があり、その最判を差し置いて「申告期限内でないとダメだよ」と国税不服審判所が説示して良いのかという議論が国税不服審判所内で巻き起こったことがありました。

2.最高裁が認容した事情とは

その最判の事案は、不動産を元妻に財産分与してから、2億円を超える譲渡所得税が自らに課されることを知るに至り、自己に課税がされないことを財産分与契約の合意の動機として表示していたとして、民法95条の要素の錯誤による無効を主張したものでした。

最高裁は、一審も原審も認めなかった要素の錯誤を認め、課税負担の錯誤(法律適用の錯誤)が契約の無効原因になり得ることを認めた先例となりました。

ただし、この最判があるからといって、「『そんなに税金がかかるのだったら、こんな取引しなかったよ』という言い訳が税務署に対して通用する」と、あまねく事案で言えるかというと、それは違うのではないかと考えています。

少なくとも本件は、下記の事情があり、これが契約無効の認定に影響を与えた可能性があります。

・高額な不動産を無税で取得する妻と、それを手放すのに多額の納税義務を負う夫との間のバランスが考慮された可能性があること
・世間の一般常識からすると財産分与の課税関係は特殊であることが考慮された可能性があること
・事業者ではなかったこと

そういった点で、税理士が関与する納税者は通常は事業者でしょうから、この最判があるからといって、「税金がかかるなんて知らなかったんだよ」という言い訳が事業者にそう易々と許容されると思わない方が良いでしょう。

3.国税審判官のリーガルとしての職能

上記の見解は、私がまっさらの状態から構築できるはずがなく、別冊JuristNo.207「租税判例百選(第5版)」35頁の中里実先生(政府税制調査会会長)のご見解を参考にさせていただいていますが、国税不服審判所では、こういった民法との境界にある(あるいは民法そのものが論点となる)事案も中にはあって、単に「税目横断的に税法規定を知っている」というだけでは、国税審判官の職務が務まるものではありませんでした。

特に、大阪国税不服審判所は、歴代の所長が裁判官(地裁の裁判長ないし高裁の判事級)であり、私のようなリーガルの心得のない者が、ベテラン裁判官の前で、冷や汗・脂汗をかきながら事案の処理方針を説明するなど、今から思えばそんな大胆なことをよくやっていたものだと思うのですが、その分、本当に貴重な経験をさせていただいたと思っています。

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