【0002】裁決書は誰のために出すのか

1.裁決書の利害関係者の範囲

国税不服審判所のホームページにおいて、平成8年7月1日以降に出された原則として全ての裁決要旨が検索できると同時に、平成4年以降の公表裁決が閲覧できるように整備されています。

審査請求人から審査請求書が提出されると、様々な手続きを経て、最終的な国税不服審判所の結論として、裁決書の謄本が審査請求人及び原処分庁(処分をした国税局長又は税務署長)に送達されます。

余談ですが、裁決書の原本は国税不服審判所に存在し、その謄本(全部コピー)が「原本と相違ない」旨の記載とともに両当事者に送達されます。

このように、裁決書は、審査請求人からの審査請求書の提出を起点とし、最終的には両当事者に対して送達されるものですので、その記載は、両当事者が理解できれば最低限としては良いということになるともいえます。

しかし、実際には、国税不服審判所の裁決は、両当事者のみならず、その後、「税理士(公認会計士)などの実務家」、「税法学者」、「税務職員」、そして、これらの者を媒介として「将来の納税者」にも影響を与えることになります。

2.利害関係者への影響力

例えば、国税不服審判所が原処分を取消す裁決をした場合、その内容は、税務雑誌の出版社や税理士(公認会計士)の各種団体によって情報公開請求されることが通常です。

国税不服審判所では、特に原処分を取消す裁決については、そのほぼ全てが情報公開請求されることを見越して、事案のクロージングの段階から、情報公開請求に対応するために必要な「マスキング作業」を行っています。

取消裁決が情報公開請求されるのは、それが税理士(公認会計士)の実務にとって有益な情報であると考えられているからでしょう。

このように、取消裁決は、納税者の代理人である税理士(公認会計士)業界に拡散することが見込まれます。

そうすると、裁決を出す立場の国税不服審判所としては、一義的にはその裁決が両当事者のために出すといえども、その背後に存在する将来の利害関係者にどのようなメッセージを与え得るかを見据えて、裁決書の結論及び書きぶりを検討しなければなりません。

これは、税理士(公認会計士)業界に限らず、将来の税務調査を担当することになる課税庁にもいえることです。

例えば、ある事案で、国税不服審判所が審査請求を棄却する(原処分を維持する)裁決を出した場合、課税庁に以下のようなメッセージを与える可能性があります。

「おっ!この事案で審判所は原処分を維持してくれた。ということは、これから同様の事案でもっと『イケイケ』に処分をしても良いということだな。」

これは、取消裁決を出した場合に、税理士(公認会計士)業界に以下のようなメッセージを与える可能性があることの裏返しです。

「おっ!この事案で審判所は原処分を取り消してくれた。ということは、これから同様の事案で、もはや課税庁は処分できないことに審判所がお墨付きを与えたということだな。」

3.国税審判官の職責の重大さ

私にも、かつて、「原処分取消」と「審査請求棄却」のいずれの方針で裁決書案を起案すべきか悩み倒した事案があります。

これは、「その事案の審査請求人1名を救済すべきか」ということのみならず、その裁決判断が「将来の税理士(公認会計士)業界」と「将来の課税庁」にどのようなメッセージを与えるかをも顧慮しなければならなかったからです。

そのような国税審判官の職責の重大さに、任期満了後の現在でも身が引き締まる一方、税務行政の判断機関に身を置いていたからこその経験が得られたことに改めて感謝しています。

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