【0003】染まらないでほしい

1.国税審判官採用試験

審査請求事件を担当する国税審判官(担当審判官)の半数程度(50名)は、弁護士・公認会計士・税理士を対象とした民間公募によって採用されています。

意外かもしれませんが、採用試験は書類選考と面接1回のみです。

ただし、その面接官のラインナップが重厚なもので、私の時には、
・国税不服審判所本部所長(裁判官出身)
・国税不服審判所本部次長(国税庁キャリア官僚)
・東京国税不服審判所長(検察官出身)
・大阪国税不服審判所長(裁判官出身)
・国税不服審判所本部管理室長(国税庁キャリア官僚)
の5名によって45分にわたって行われ、国家試験の受験時並みに緊張したことを覚えています。

面接官のキャリアから、どうしてもリーガルセンスについての質問が多く飛び、税理士(公認会計士)出身者はそれだけで苦戦します。

2.国税不服審判所に期待される役割

採用後、国税不服審判所本部管理室長の面談を受けた時の話です。

当時の管理室長は、関東信越国税不服審判所の国税審判官の経歴もあり、財産評価における「利用価値が著しく低下している宅地の評価(10%評価減)」の事例で、自ら騒音計を持って評価対象地に行き、路線価の算定過程(騒音が評価額に反映されているか否か)を職権調査したときの経験談などをお聞きしました。

その事案の裁決結果としては棄却(納税者負け)だったようですが、その事案の代理人税理士が、裁決後、「結果は棄却だったが、審判所があれだけ職権調査した上での結論だったのだから致し方ない」という旨のコメントを発信しているのを見て、「勝ち負けは当然大事だが、当事者の納得性を少しでも高められる裁決書を書けるかどうかに国税不服審判所の存在意義が掛かっている」という思いを新たにしたとのお話が印象に残りました。

国税不服審判所は税務行政の最終判断・自己反省機能を有する機関であり、軍配をいずれかに上げるだけではなく、特に負けさせる側に「そういう判断だったら致し方ない」と思ってもらえるような成果物(裁決書)を目指すべきなのだろうと思います。

たとえ棄却であっても、所得税・法人税であれば、審査請求対象年分の翌年以降も継続して申告納税していただかなければならないのですから、国税に対する信頼をできるだけ毀損しないようにするには、裁決の「主文(結果)」のみならず、「理由」の書きぶりも大事なのだろうと思います。

3.管理室長からのメッセージ

その管理室長からは、「慣れてほしいけれど、染まらないでほしい」というメッセージをいただきました。

言葉を添えれば、「慣れることによって活躍してほしいけれど、国税組織の常識や論理に染まらないでジャッジしてほしい」ということだとその時に理解しました。

その「染まらないでほしい」のメッセージがいかに深い(難しい)ものかということをその後の勤務経験で痛感することになるのですが、これが、民間出身の国税審判官に期待される役割のひとつなのだろうと思っています。

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