【0105】「国税審判官」のサジェストキーワード(その1)

1.ラッコキーワードによる検索傾向

「ラッコキーワード」というサイトがあります。
これは、Google・YouTube・goo・Yahoo・Bingなどでなされる各種のキーワードリサーチのデータを収集して無料で提供しているコンテンツ制作者向けのツールです。
読者や視聴者が求めているコンテンツは何かといったニーズを把握して、より効果的なコンテンツ制作に役立てている方が多いようです。
このラッコキーワードに「国税審判官」と入力したときに、どういったサジェストキーワードが顕れるのでしょうか。
いろいろ検出されますが、「とは」以外には、主に以下のような語句が掲記されています。
「倍率」「年収」「弁護士」「退職金」「書類選考」「年齢」「給与」「税理士」
今回は「倍率」「弁護士」「税理士」に関連するところを解説します。

 

2.倍率

令和2年7月10日付採用者の場合、応募者98人に対して16人が採用されました。
倍率は6.125倍であり、この傾向に年度においてあまり大きな違いはありません。
しかし、資格別に区分すると、倍率には大きな違いがあります。
例えば、平成30年7月10日付採用者は16人でしたが、税理士出身者は2人、公認会計士出身者は1人にすぎず、他の13人は弁護士出身者からの任官となっていました。
しかも、倍率が、弁護士2.46倍(32人→13人)であるのに対し、税理士22倍(44人→2人)、公認会計士17倍(17人→1人)と極端な差が顕れています。
この年度は極端な傾向になりましたが、そうでなくても、「弁護士<<税理士・公認会計士」という倍率傾向自体に変わりはありません

 

3.税理士採用者が少ないのは業界としては不本意

国税不服審判所は国税の裁判所のような機関であり、争訟事務に長けている弁護士に一日の長があることは経験者として認めます。
そうはいっても、国税審判官はその名のとおり国税に関する官職であり、せめて、弁護士と同数くらいは任用されてほしいところであり、この状況は「税理士業界としては不本意」であるように思います。
しかしながら、私のような税理士・公認会計士出身の過去の国税審判官が、国税不服審判所にどのような貢献ができたのかを省みると、一般的な税理士・公認会計士の素養・実務経験の限りでは、応募者のうち国税不服審判所が期待する水準に達している方が極めて少ないのではないかという思いを禁じ得ません。
先ほど、「税理士業界としては不本意」と強調しましたが、私は、「自分の当時の貢献度合い(力不足)からするとやむを得ない」という気持ちも持ち合わせています。
経験者の立場からみれば、国税不服審判所本部及び国税プロパー職員の期待は、税理士・公認会計士よりも、弁護士の方が高いように思いますし、実質的な発言権(発言の影響力)も然りです。

 

4.国税審判官に要求される職務内容

国税審判官の募集要項に記載されている職務内容は以下の3点です。

❶国税不服審判所長に対してされた審査請求に係る事件の調査・審理を行うため、個別事件ごとに合議体の担当審判官又は参加審判官として、質問・検査・証拠書類の収集等を行うこと。

❷審査請求事件の進行管理を的確に行うとともに、適正かつ迅速に事実の認定及び税法等の解釈を行うこと。

❸調査・審理の結果に基づき、合議体を構成する他の国税審判官等と公正妥当な結論に達するよう議論を尽くし、その議論の結果を踏まえ、適正かつ迅速に議決書を作成すること。

これを私なりに敷延すると、以下のようになります。

❶審査請求人・代理人(シビアな事案ほど弁護士が選任されていることが多いです)と原処分庁の双方について、課税要件(争点)に関係する主張になるように適切に釈明させます(課税要件と関係のない苦情を削ぎ落とさせるのが難しい)。

❷処分をした税務署や関係者に対する職権調査によって、自ら証拠を収集してその証明力の強弱を見極めます。

❸過去の判例・裁決事例・法律雑誌・税法の定本などを調べ尽くし、規範とすべき考え方を構築します。

❹合議に諮って他の審判官や法規審査担当(大阪審判所では判事補)とともに結論を集約します。

審判所長(大阪審判所では租税行政訴訟に精通した地裁の裁判長クラス)に事案処理の方向性を報告して質疑応答を行います(担当審判官は所長室で所長の目の前に着席して報告するのがしきたりでした)。

❻判決書に類似した議決書(裁決書案)を、民事判決・公用文などのルールに従って自ら起案します。

 

5.処理方針を審判所長に説明できるか

一般的な税理士・公認会計士の素養・実務経験の限りで、上記の職務が務まるかというと、かなり厳しいものがあり、「税目横断的に税法を知っている」「申告書をひととおり書ける」という職能とは別のスキル(一言でいうと「リーガルセンス」)を必要とします
そして、上記の職務が1年目から務まるのは、相対的には、やはり弁護士ということになるでしょう。

国税審判官は国税に関する官職ですから、税理士出身者から積極的に任用されてほしいのですが、そのためには、税理士が、現在よりも更に「税法の法律家」たり得なければなりません
税務署の担当官に対して課税要件に沿った主張をすることができない税理士が、いわんや審判所長に対して裁決方針を満足に説明することはできないのですから。

 

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