【0091】代理人として取消裁決を得て思うこと

1.一部取消裁決

この度、弊社が不服申立て段階から代理人として関与していたある法人様の法人税・地方法人税・過少申告加算税の取消しに係る裁決があり、主文としては「一部取消し」の結果でした。
主位的請求は全部取消し、予備的請求として一部取消しを求め、結果としては予備的請求の取消範囲から縮小された裁決となり、たとえ統計上の認容割合(全事案のうち全部又は一部が取り消される割合)が10%前後であるとはいえ、代理人としては更に取消税額を上積みさせたかったという思いが消えません。
取消裁決を勝ち得たことで不服申立てについての一定の成果が出たものの、出訴するか裁決結果を受忍するかの判断は、審査請求によっても取り消されなかった税額を訴訟において取り消されるか否かの勝算(期待値)、訴訟による人的・精神的・資金的負担を総合考慮した上でする必要があります。

2.元大阪国税不服審判所長の講話

本件については、請求人の主張する事実関係については概ね国税不服審判所に認められた上で、裁決書の「認定事実」の項に反映されることになり、弊社としても請求人法人に対してある程度報告しやすいものとなりました。
そのように思うのは、私が国税審判官の任にあった当時に、元大阪国税不服審判所長でいらした裁判官による所内研修の講演録を拝読した時のその内容が心に残っていたからです。
記憶の限りで、その時のお話をご案内します。

3.きちんと突いてあげる判断

裁判をしていると、負けた側が「この点で裁判官が負かせたのなら仕方がない。」という負け方と、「なぜこのようなところで負けてしまうのか。」という負け方といろいろな負け方がある。
弁護士がついていると、判決が出たらクライアントに事務所に来てもらい、このような内容の判決だと噛み砕いて説明される弁護士が多いだろうが、その際に弁護士が本人に「これで負けたら仕方がない。」という理由で負けていれば弁護士も納得しやすいし、本人にも説明しやすいだろう。
しかし、弁護士が「ここは堅いし大丈夫だろう。」と考えていたところや「まさかこんなところを裁判官が見て判断するとは。」というようなところで負けてしまうと、弁護士自身も腹が立ち本人に説明するどころではないだろう。
「これなら仕方がない。」と思っているようなところをきちんと突いてあげるのも、判断者にとって大事なことである。
自分の担当した損害賠償請求事件で原告を勝たせたことがあり、被告は控訴せずに確定したことがあったが、後日、被告弁護士からオフレコの場において以下のようなことを聞いた。
「裁判官、あの事件を覚えていますか。多額の賠償額だったので控訴しても良いですよと本人に言っていたのですが、本人は控訴しないと言いました。なぜかというと、『裁判官は原告弁護士がいろいろ攻め立てた事実関係を全て撥ねつけて、自分が認めて欲しいと思っていた事実関係を採用してくれた。そこをしっかり見てくれた裁判官による判断で負けたのであれば甘んじて受けよう。』ということだったのです。」
被告本人からすれば、「ここで負けるのであれば仕方がない。こういう理由で負けるのであれば仕方がない。」というような基準があったのだろう。そこをきちんと突くということも納得のできる結論との関係で重要ではないか。」

4.納得性の向上に寄与する裁決を

不服申立てに限らず争訟である以上は、自分の主張が完全に認められるとは限らず、特に行政訴訟の場合には認められない割合が高いものです。
しかし、たとえ負けるにしても、「この部分は判断者に認められた。」という点が当事者に理解できるような結果であれば、快諾はできないにせよ納得性の向上には寄与すると思われます。
今回、弊社が関与した事案についても、国税不服審判所による丁寧な調査審理や裁決書の起案について、内部を経験した者からこそ窺える部分が随所に見られました。
そのような裁決書を表面的に読むだけでは直接見えない部分もご説明した上で、出訴されるか又は受忍されるかの判断を請求人の社長様に委ねたいと考えています。

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