【0098】民間出身国税審判官の或る日の日記(その5)

1.平成26年9月4日

2部門係属の事件については、事件検討会の結果が合議体にとって思わしくなかったようで、合議体が取消しの議決をしても差戻しの可能性もあるようだ。
支所長は事前に総括審判官から「最後の判断だけ加わってもらったら良いから」と言われていたようだが、現場での居場所がないと感じたようで、言う予定のなかった第一声を言ったようだ。
合議体のみならず審査官も緊張したようだし、ある幹部は議論を拡散させるコメントをしたそうだし、エライ方が集まった会議も大変そうだ。
自分はまだ参加したことがないが、審理部と対立した場合のめんどくささの一つだろうし、結局答えが出ないというのが合議体としては一番ツライだろう。

(補足)
たとえ国税通則法において、「審判所長は合議体(担当審判官+参加審判官2名)の議決に基づき裁決する」旨規定されていても、それは「議決のとおりに裁決する」という意味ではないとされ、審判所長(+所長を補佐する法規審査部門)と処理方針の一致をみない場合には、たとえ議決をしたとしても、最終的には審理不尽として「返戻(合議体に差戻し)」になる可能性があります。
合議体と法規審査部門で処理方針が一致しない場合、当時の大阪審判所は所長・次席審判官の臨席を仰いで「事件検討会」を開催することになっていました。

2.先例裁決に拘束される

過去に他支部でおそらく誤っているであろう裁決(棄却)事例があった場合に、大阪支部でまったく同じ内容の事件が上がって取消ししたいときに、誤りではないかと認識しているにも拘わらず、その先例裁決があるので取り消すことが難しくなるケ-スが案外あるらしい。
その場合、結局訴訟に進んで原処分庁が負けて「大阪審判所で出した裁決が裁判で負けた」という評価になってしまうのがツライようだ。

(補足)
訴訟は、下級審で異なる判断がなされたとしても、上級審に進むにしたがって判断が統一されることを前提としていますが、国税不服審判所裁決は税務行政の最終判断機関であり、行政判断の全国統一性の要請上、他支部でなされた先例裁決を無視することはできません。
裁決書は、担当審判官の名でも各支部の審判所長の名でもなく、国税不服審判所本部所長の名前で発出されますが、個別事件の裁決権は本部の方針に反しない限りにおいて各支部の審判所長に委任されています。

裁判官出身の審判所長は通達について懐疑的であり、通達に表面的に沿っているから良いという考えでは済まない。

(補足)
裁判官が国税庁長官通達に拘束されないのはもちろん、審判所も拘束されない建前ではあるものの、現実的には、審判所が通達を覆した例は50年間で10例もありません。
大阪審判所長は、京阪神の地方裁判所の租税行政事件を扱う部門の裁判長経験者が歴代就任していますが、だからといって通達を所与のものとみることはなく、所長の個性によっては通達に重きを置かずに判断しようとして、本部とコンフリクトを起こすこともあり得ます。 

3.普通科出身者の素養の高さ

それにしても総括審判官の勉強意欲はすごく、改正や判例についてキャッチアップしているノートを見せてもらったがとても真似できない。

(補足)
その総括審判官は税務職員(高卒相当)採用試験による税務大学校普通科出身者でしたが、40年の職務によってここまで税法に係る知見が備わるものかと尊敬していました。
現在は、国税専門官(大卒相当)試験を経由する職員の方が多いですが、当時の幹部の採用時は普通科出身者の方が多く、指定官職にもかなりの割合で普通科出身者が占めていました。
ちなみに、当時の大阪審判所神戸支所の総員10名のうち、民間出身審判官(弁護士と私)を除く8名の実に7名が普通科出身(国税専門官出身は1名のみ)でした。

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