【0256】幻の国税審判庁構想(その4)

1.第9条(審判官、調査官及び事務官)

各国税審判庁に、国税審判庁審判官、国税審判庁調査官及び国税審判庁事務官を置く。
2 国税審判庁調査官は、審判官の命を受けて、第5条に規定する審判に関して必要な調査をつかさどる。
3 国税審判庁事務官は、上司の命を受けて、国税審判庁の事務をつかさどる。
4 各国税審判庁の長が指定する国税審判庁事務官は、審判官の命を受けて、事件に関する書類の作成、保管及び送達に関する事務をつかさどる。
5 国税審判庁審判官は、国税に関し学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
(コメント)
国税不服審判所の設置を含む国税不服申立制度の抜本的な改正に係る「国税通則法の一部を改正する法律案(政府案)」に対して、当時の野党が第61回国会(昭和43年12月27日から昭和44年8月5日)に提出した対案である「国税審判法案」について、現在の国税不服申立制度と大きく異なる部分及び同法案において設置することとされていた「国税審判庁」の組織に係る部分をご紹介しています。
現在の国税不服審判所の各事件の関与は、国税審判官、国税副審判官の中から3名が合議体を組織し、国税審判官が担当審判官となって調査審理を主導するとともに、3名で合議を行って議決書を作成することになる一方、国税審査官は議決権がなく思に担当審判官の補佐を行うことになっています。
条文を見ていると、上記の「国税審判庁審判官=現在の国税審判官」、「国税審判庁調査官=現在の国税副審判官」とはならない反面、「国税審判庁事務官=現在の国税審査官」ような印象を持ちます。
現在の担当審判官である国税審判官は調査も審理も行う一方、その事件の担当審判官ではない国税審判官と国税副審判官は担当審判官とともに審理中心に関与するのが通常だと思いますが、国税審判法案では、調査は指揮のみ執って実務は部下に任せ、自分は審理中心に関与することが予定されていたのかも知れません。
何せ内閣総理大臣が任命するくらいですので、国税審判法案が成立していれば、国税審判庁審判官は国税庁長官が任命する現在の国税審判官よりもステータスが格段に高かったのかも知れません。

2.第10条(構成)

中央国税審判庁における審判は、審判官5人をもって構成する合議体で行う。
2 地方国税審判庁における審判は、審判官3人をもって構成する合議体で行う。ただし、簡易な事項に係る処分については、地方国税審判庁は、審判請求人の同意を得たときは、1人の審判官で審判を行う。
3以下 略
(コメント)
中央国税審判庁に係属する事件は、国税庁長官がした処分、税務署長がした処分でも調査が国税庁の職員によってなされたもの、国税庁長官通達の適否を争うものとされていました。
現在は、審理手続を経ないする却下裁決でない限りは、審判官が1人で審理するということはなく、3人の国税審判官及び国税副審判官により合議体を構成して議決を経た上で、法規審査の後に国税不服審判所長が裁決することになりますが、国税審判法案では1人の審判官による審理が予定されていたようです。

3.第13条(監督権と審判権との関係)

前2条(中央国税審判庁と地方国税審判庁の職務)の監督権は、審判官の審判権に影響を及ぼし、又はこれを制限することはない。
(コメント)
第8条(職権の行使)で「審判官は独立してその職権を行う」旨が規定されており、それを具体的に規定したものとみられますが、現在の国税通則法に国税審判官の独立性について特に謳った条文はなく、国税審判法案よりも後退したといえるのかも知れません。

4.第14条(定員)

国税審判庁(略)の定員は、1,007人とする。
(コメント)
現在の国税不服審判所の定員は約470人前後であり、昭和45年の発足当時でも449人であったことから、かなり充実した組織を想定していたのかも知れません。

5.第15条(支部)

地方国税審判庁の事務の一部を取り扱わせるため、その地方国税審判庁の管轄区域内に、地方国税審判庁の支部を設ける。
(コメント)
中央国税審判庁が現在の国税不服審判所本部、地方国税審判庁が現在の国税不服審判所支部(各地域国税不服審判所)を指すため、「支部」の定義が現在の国税不服審判所とは異なり、現在の国税不服審判所では「(支部に置かれた)支所」の位置付けになると考えられます。
具体的な地方国税審判庁支部の設置場所については、国税審判法案の別表に記載がありません。
現在は、関東信越国税不服審判所に新潟支所と長野支所、東京国税不服審判所に横浜支所、名古屋国税不服審判所に静岡支所、大阪国税不服審判所に京都支所と神戸支所、広島国税不服審判所に岡山支所がそれぞれ設けられており、国税不服審判所が設置された昭和45年から昭和57年まで仙台国税不服審判所に青森支所が設けられていました。

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