【0253】幻の国税審判庁構想(その1)

1.法律案の提出と審議経過

国税不服審判所の設置を含む国税不服申立制度の抜本的な改正については、当時の政府税制調査会の「税制簡素化についての第三次答申」を受けて、最初の法案が、昭和44年2月18日、第61回国会に「国税通則法の一部を改正する法律案」として提出されました。
法案は、昭和44年6月27日の衆議院大蔵委員会、同年7月1日の衆議院本会議においてそれぞれ一部修正の上可決し、参議院に送付され、参議院大蔵委員会においてほぼ成立を目前にしていましたが、大学紛争の混乱の余波を受けて、第61回国会での政府案は審議未了(廃案)となりました。
次いで、政府案は、昭和44年12月1日、第62回国会に上記衆議院における修正を全て織り込んだ上で提出されましたが、この時は総選挙を目前に控えた短い会期であったため、大蔵委員会の審査に入るに至ることなく再び審議未了(廃案)となりました。

2.改正案の成立

昭和45年2月17日、第63回国会に提出された政府案は順調に審議が進み、衆議院大蔵委員会においては同年3月4日附帯決議を付して可決、翌5日の本会議において原案のまま可決、参議院大蔵委員会においては同年3月24日附帯決議を付して可決、同年同月27日の本会議において原案のまま可決され、「国税通則法の一部を改正する法律(昭45法8号)」として同年同月28日に公布、同年5月1日施行の運びとなりました。

3.対案が上程されていた

実は、当初の国税通則法改正案が政府案として上程された第61回国会において、当時の野党が「国税審判法案」を上程し、並行審議されていました。
昭和44年5月7日の衆議院大蔵委員会において、当時の日本社会党所属の広瀬秀吉議員が国税審判法案の提案理由と法案の概要について発言しています。

私は、提案者を代表いたしまして、国税審判法案につき、提案の理由及びその内容の概要を御説明申し上げます。
戦後二十数年を経た今日、納税者の税金に対する不平と不満は依然として非常に多いのが現状であり、また、その不平不満を内容的に見ましてもきわめて切実なものがあることは、周知のとおりであります。
ところが、このような納税者の不平不満に対処すべき現行の権利救済制度は、その不平不満、すなわち、租税事案を正当に解決するにはあまりにも不備であり、かつ、欠陥の多いものであることは、つとに指摘されてきたところであります。
すなわち、現行の租税事案にかかる権利救済制度のもとにおきましては、処分庁及びその直近上級庁が不服申し立ての処理機関とされておりますため、不服申し立てについての決定ないし裁決の公正は十分に確保されていないといわなければなりません。
もちろん、審査請求の段階では協議団の制度が設けられてはおりますが、この協議団の制度につきましては、執行機関の系列内に置かれた付属機関であり、裁決権を有するものではなく、国税局長の指揮監督に属し、かつ、協議官はすべて税務職員で構成されていることなどから、協議団に期待されている裁決の公正をはかるための担保的機能はきわめて不十分なものにとどまっているのが現状であります。
さらに、協議団が執行機関の系列内にある限り、租税事案の審理にあたって国税庁長官の通達と異なる取り扱いをすることは困難であり、そのため、本来国民は法令に拘束されるが、通達には拘束されないものであるにもかかわらず、不服申し立て、すなわち、行政不服審査の段階では国税庁長官の通達による拘束から脱することができない結果となっており、これでは納税者の権利利益の完全な救済が何ら確保されないことは明らかであります。
一方、租税事案についての裁断の公正の確保という見地から申しますと、裁判所による救済が最もその目的に合致するものではありますが、しかし、裁判所による救済、すなわち、訴訟は、費用や時間を要する点に問題がありますので、裁断の公正を保持しつつ、比較的簡素な手続により事案が処理されるような制度が現在強く要望されているといわなければなりません。
すなわち、現行の協議団制度には裁断の公正を保持することができないという致命的ともいうべき欠陥が存するという批判、その批判からもたらされる完全な第三者機関の公正な裁断による救済への要求と、裁判のように費用や時間をかけなくても済むような租税救済制度が望ましいという納税者の立場、すなわち、行政段階での比較的簡素な手続きによる救済への要求という両者の要請を満たすような新しい租税救済制度を確立することが必要不可欠であるといわなければなりません。
以上のような考え方によりまして、現行の協議団の制度を廃止し、行政段階の新しい租税救済機構として、執行機関から完全に分離独立した裁決機関としての国税審判庁を設けることとし、この国税審判庁が純粋の第三者機関として租税事案につき比較的簡素な手続きで公正な審判を行なうことによって、納税者の権利利益の救済をはかることとする必要があることを強く認識し、ここにこの国税審判法案を提案した次第であります。
以下、この国税審判法案の内容についてその概要を御説明申し上げます。
(次回に続きます。)

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