【0057】争点設定

1.争点主義的運営

国税不服審判所は、たとえ審理の原則が総額主義であっても、以下の国税不服審判所創設時の参議院附帯決議を尊重して、「新たな調査を行う場合は『争点主義』で・原処分の適否は『総額主義』で」という争点主義的運営の考え方に基づいて審理を行っています。

「一、政府は、国税不服審判所の運営に当つては、その使命が納税者の権利救済にあることに則り、総額主義に偏することなく、争点主義の精神をいかし、その趣旨徹底に遺憾なきを期すべきである。(参議院大蔵委員会 昭和四十五年三月二十四日)」

2.争点とは何か

審査請求の局面に限定して「争点」を定義するとすれば、「審査請求に係る原処分の課税要件事実のうち、その存否について審査請求人と原処分庁との間で争いがあるもの」といえるでしょう。

争点を設定するためには、両当事者の主張を比較検討し、原処分のどの課税要件事実に争う意があるのかを見極める必要があり、その争っている範囲を確定する作業を「争点整理」といいます。

3.争点整理の例

例えば、遺産分割によりA土地を取得した甲が、乙に対し、A土地を代金5,000万円で売却し、その遺産分割手続に要した弁護士費用300万円を取得費の額に含めて所得税(復興所得税)の申告をしたところ、その弁護士費用を取得費に算入することを否認された事例を設定します。

課税要件を分割すると以下の4点となり、このうち❶から❸については両当事者間で争いがありません。

❶資産:A土地
❷譲渡:乙に対して売却
❸収入金額:5,000万円
❹取得費の額

しかし、上記の❹については、原処分庁がその該当性を否認した一方、審査請求人は、遺産分割手続に要した弁護士費用300万円が該当すると主張しました。

そうすると、国税不服審判所は、上記の❹についてのみ調査審理すれば、原処分の適法性についての結論を導くことができます。

そこで、本件の争点は、「遺産分割手続に要した弁護士費用300万円がA土地の譲渡に伴う取得費に当たるか否か」といった表現になると思われます。

なお、両当事者間で争いはないものの課税要件事実を構成する❶~❸については、裁決書の「基礎事実」に記載されることになります。

このため、的確な争点整理を行うためには、原処分の課税要件事実と立証責任の正確な把握が不可欠であり、これによって、調査審理対象の必要最小限が画されることになります。

4.争点設定における留意事項

争点は「課税要件事実レベル」で設定する必要があります。

例えば、ざっくりと、
「重加算税の賦課決定が適法であるか否か
と表現するのではなく、国税通則法68条における課税要件の表記を用いつつ、
「請求人の申告は事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものか否か」
と表現するのが適切でしょうし、単に当事者間の主張が食い違っているだけで、課税要件事実に関係のない事実の存否は、争点足りえないことになります。

例えば、審査請求人が料理人である事案で、「料理人の聖域である調理場に請求人に断りなく侵入したことは、請求人の料理人としてのプライドを踏みにじるものであって違法か否か」といった設定をしても、調査担当職員が請求人のプライドを踏みにじったところで法律効果に影響するものではないため、争点としては不適当ということになるのでしょう。

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