【0034】審査請求件数のからくり

1.統計資料の公表の仕方

毎年6月20日頃に国税不服審判所のホームページに「審査請求の状況」という統計資料が掲示されます。

平成30会計年度については、令和元年6月20日に公表されており、それを見ると、3,104件の審査請求があり、2,923件の処理がなされたことになっています。

この統計資料を見る限り、「1年間で3,104通の審査請求書が提出され、2,923本の裁決書が発出された」というイメージを抱かれるのではないかと思われますが、それは全くの誤解です。

2.審査請求本数のカウント方法

例えば、「青色申告の取消しを受けて、個人事業者(消費税の課税事業者)が、平成19年から25年までの7年間に遡って追徴され、その全てについて重加算税の対象になった」というケースはどうでしょうか。

・青色申告取消しも「国税に関する処分」であり1件
・所得税・消費税・地方消費税各7年分であり、7×3=21件
・重加算税は本税と別カウントですので同じく21件

合計43件の処分が同一の納税者になされており、その納税者がこれら処分の全ての取消しを求める場合には、たとえ1通の審査請求書・1本の裁決書であっても43件というカウントになります。

また、同一の被相続人に係る相続税で納税義務者が5名であった場合、現行の法定相続分課税方式においては、たとえ課税価格が増加したのは特定の1人であっても、他の4人の納税者の税額も増加してしまいますが、5人とも審査請求をすればそれは5件のカウントになります(その場合は、総代が選任されることが通常であり、「総代A山B男ほか4名」という審査請求人名となります)。

そうすると、「3,104件の審査請求があり、2,923件の処理がなされた」といっても、実際の裁決書の本数は全国で年間数百件という程度になります。

3.裁決書1本当たりの原価

平成26事務年度に国税不服審判所本部所長の畠山稔さんが大阪国税不服審判所神戸支所に視察にみえた時に、弁護士出身の民間出身国税審判官とともにグループ面談に臨んだことがありますが、その席で私は次のように言いました。

「国税不服審判所の予算は年間約●●億円です。これを年間の裁決本数●●本で除すると裁決書1本当たりの原価は約●●円になります。しかも、予算の●●%は人件費ですから、裁決書1本当たりの人件費は約●●円になります。裁決書の品質の維持向上は、これだけの人的資源が投下されていることからも必要ではないでしょうか。」

畠山所長は「公認会計士・税理士出身ならではのコメントだね」という反応だった記憶がありますが、「これら人的資源が国費で賄われている」ことを意識しながら調査審理に従事しなければならないことを言わんとしたものです。

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