【0198】国税不服審判所の研修体系(その1)


1.国税不服審判所は多民族国家

国税不服審判所は、税務行政部内とはいえ、既になされた原処分の適否を審理し、取り消す権限がある(原処分庁は裁決結果に拘束される)争訟機関であり、課税・徴収のキャリアを経てきた国税プロパー職員にとっても、その職務及び自らの立ち位置に戸惑いを覚える方が多いようです。
また、弁護士・税理士・公認会計士といった民間専門家による任期付審判官にとっては、そもそも常勤の国家公務員になるというマインドリセットを行わなければなりません。
そういう点で、審判所は、裁判官・検察官・裁判所書記官といった法曹関係者、国税プロパー職員、任期付審判官による多民族国家であり、これら出身母体の異なる者が合議によって一定方向の結論を出すために必要な素養や技術面について、民間からすると手厚いともいうべき研修プログラムが用意されています。

2.研修の目標

審判所において行われる各種研修の具体的な目標は以下のとおりです。
・審判実務(技能)の習得:争点整理及び事実認定等の審判実務に必要な実践的なノウハウの習得
・法律知識等の習得:外部講師・法曹出身者及び任期付審判官等が持つ専門的知識の習得
ここでは、課税庁から大阪国税不服審判所に赴任した国税プロパー職員(又は民間から任官した任期付審判官)が初年度に受けるべき研修体系をご紹介します。

3.任期付職員導入研修

任期付審判官が任官された直後に2時間程度かけて行われるものであり、国税庁・国税局・審判所の組織と事務の概要及び留意事項等について研修が行われます。
研修目的としては、大阪審判所の状況や総務関係等の諸手続を理解してもらうことにあります。
講師は基本的には管理課長になりますが、その部下である総務係長によって行われることが多いかもしれません。

4.新任者研修

国税プロパー職員及び任期付審判官に対して、審判所の概要及び大阪審判所における事務処理手順等を理解させるために、異動後約10日程度経過した時期に丸1日をかけて行われます。
具体的には、審判所の概要説明、審判所本部が制作した動画による審判実務の実際の紹介、審判所情報ポータルサイトの概要説明、ポータルサイトによる判例検索手法などについて説明を受けます。

5.新任審判官研修

7月下旬から8月初旬にかけて、埼玉県和光市にある税務大学校において「審判実務研修」が行われますが、これに先立ち、前日午前中に審判所本部に新任の任期付審判官が集まり、審判所本部所長、管理室長などから、国家公務員としての基本ルール及び審判所事務の基本的な知識の習得を目的とした研修が行われます。
研修会場は採用面接が行われた会議室でもあり、「審判官になったんだなぁ」という実感を持った記憶があります。
具体的には、国家公務員関係法令等、審判所の組織と事務の概要及び留意事項等について説明を受けます。

6.審判実務研修

新任審判官研修を終えると、新任の任期付審判官は埼玉県和光市にある税務大学校に移動して入寮手続を行います。
ここで審判所に赴任した国税プロパー職員が合流します。
そして、翌日から平日6日間(管理課職員は前半3日間)にわたり、審査請求事件の調査及び審理に関する実務に必要とされる実務的かつ基本的な事項の習得のための座学(講義形式)のカリキュラムが用意されており、本部審判官から、形式審査、法的三段論法、裁決書案(議決書)の起案方法その他の各論について、朝9時から午後5時まで講義を受けることになります。
その間には、外部講師による特別講義があり、私の当時は、品川芳宜先生や佐藤孝一先生が講師を務めてくださいました。
しかし、最近は6日間(4日間)が4日間(2日間)に短縮されていると聞きます。

7.法規審査担当者研修

国税プロパー職員のうち、例えば東京審判所においては第一部、大阪審判所においては審理部といった法規審査の補職辞令を受けた者については、8月下旬から9月初旬にかけて2日間、東京審判所に集まり、法規審査の役割及び事務の重要性を認識させるとともに、留意すべき事項及び必要な知識等を習得させるための研修が行われます。
具体的には、法規審査事務の心構え、手順及び事務処理要領等の理解、事例による検討、そして、裁決事例から見た法規審査に当たっての留意事項等について本部審判官から講義を受けることになります。
異動時期直後における研修は以上であり、通年にわたって行われる研修については次回にご紹介します。

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