【0127】国税不服申立制度の抜本的な改正を総覧的に解説すると

1.行政不服審査制度の改正の概要

行政不服審査制度は昭和37年の制度創設以来、半世紀ぶりの抜本的な見直しが行われ、以下に概説する新たな行政不服審査制度が平成28年4月から施行されています。

改正前の制度では、異議申立ては審査請求と比べ、審理手続において客観的かつ公正な審理手続の保障が不十分な面があり、不服申立手続の権利保護のレベルが異なるのは不合理であること、また、複数の申立ての種類があることは分かりづらいなどの問題が指摘されていました。

改正後の制度では、「異議申立て」を廃止し「審査請求」に一元化することとされましたが、この例外として、処分庁以外の行政庁に審査請求をすることができる場合において、要件事実の認定の当否に係る不服申立てが大量にされる国税・関税の処分のように、当該処分について再調査する意義が特に認められるものについては、個別法に特別の定めがあるときに限って、「再調査の請求」をすることができることとされました。

行政上の不服申立制度についての一般法である行政不服審査法が改正されたことに伴い、国税の不服申立制度を規定した国税通則法においても、以下のとおりの改正が行われました。

2.不服申立前置の見直し(国税通則法75条)

改正前の制度では、原則として、国税に関する処分に不服がある者は、税務署長等に対する「異議申立て」を経なければ、国税不服審判所長に対する「審査請求」をすることができず、これを「異議申立て前置主義」と称していました。

改正後の制度では、従前の処分庁に対する「異議申立て」については、その名称を「再調査の請求」に改めるとともに、税務署長等が行った処分に不服がある場合には、納税者の選択により、税務署長等に対する「再調査の請求」を行わずに、直接、国税不服審判所長に対する「審査請求」を行うことができるようになりました。

3.適用除外(国税通則法76条)

改正前の制度においては、国税通則法8章1節(不服審査)又は行政不服審査法の規定による処分その他国税通則法75条(国税に関する処分についての不服申立て)の規定による不服申立てについてした処分等については不服申立てをすることができないこととされていました。

改正後の制度では、改正行政不服審査法で同法に基づく処分に係る不作為についての審査請求も不服申立ての適用除外とされたことから、国税通則法においても、裁決等の不服申立てについてする処分に係る不作為について、不服申立てができないことが規定されました。

4.不服申立期間(国税通則法77条)

改正行政不服審査法において、不服申立期間が延長されたことから、国税通則法においても同様の規定が整備されました。

この規定の整備により、改正行政不服審査法と同様に、国税に関する不服申立期間(主観的不服申立期間)を、3か月(改正前は2か月)に延長することとされました。

5.標準審理期間の設定(国税通則法77条の2)

改正行政不服審査法において、標準審理期間を定めるよう努めることが規定されたことから、国税通則法においても新たに同様の規定が整備されました。

この規定の整備により、国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、不服申立てがその事務所に到達してから当該不服申立てについての決定又は裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、その事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならないこととされました。

ちなみに、再調査の請求は3か月、審査請求は1年と定められています。

6.審理手続の計画的進行(国税通則法92条の2)

改正行政不服審査法において、審理手続の計画的な進行を図らなければならないとする一般的な責務を課す規定が設けられたことから、国税通則法においても新たに同様の規定が整備されました。

この規定の整備により、審理関係人(審査請求人、参加人及び原処分庁)及び担当審判官は、簡易・迅速かつ公正な審理の実現のため、審理において、相互に協力するとともに、審理手続の計画的な進行を図らなければならないこととされました。

7.口頭意見陳述の整備(国税通則法95条の2)

改正行政不服審査法において、全ての審理関係人を招集した口頭意見陳述及び質問権の規定が整備されたことから、国税通則法においても同様の規定が整備されました。

この規定の整備により、審査請求人又は参加人の申立てがあった場合には、担当審判官は、当該申立てをした者に口頭で審査請求に係る事件に関する意見を述べる機会を与えなければならないとされ、担当審判官が期日及び場所を指定し、全ての審理関係人を招集してさせることとされました。

そして、口頭意見陳述の申立てをした者は、口頭意見陳述に際し、担当審判官の許可を得て、審査請求に係る事件に関し、原処分庁に対して、質問を発することができることとされました。

8.審理手続の計画的遂行(国税通則法97条の2)

改正行政不服審査法において、審理手続の計画的遂行の規定が設けられたことから、通則法においても新たに同様の規定が整備されました。

この規定の整備により、担当審判官は、審査請求に係る事件について、審理すべき事項が多数であり又は錯綜しているなど事件が複雑であることその他の事情により、迅速かつ公正な審理を行うため、口頭意見陳述や証拠書類の提出等の審理手続を計画的に遂行する必要があると認める場合には、期日及び場所を指定して、審理関係人を招集し、あらかじめ、これらの審理手続の申立てに関する意見の聴取を行うことができることとされました。

そして、担当審判官は、この意見の聴取を行ったときは、遅滞なく、審理手続の期日及び場所並びに審理手続の終結の予定時期を決定し、審理関係人に通知することとされました。

9.審理関係人による物件の閲覧等(国税通則法97条の3)

改正行政不服審査法において、審査請求人等による閲覧の対象が拡大されるとともに、写し等の交付を請求することが可能になったことから、国税通則法においても、同様の規定が整備されました。

この規定の整備により、審理関係人は、審理手続が終結するまでの間、担当審判官に対し、提出された書類その他の物件の閲覧又は当該書類の写し等の交付を求めることができることになりました。

また、担当審判官は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は写し等の交付を拒むことができないこととされ、担当審判官は、物件の閲覧等を求めてきた者に閲覧をさせ、又は写し等の交付をしようとするときは、その閲覧等の可否について適切に判断することができるよう、原則として、書類その他の物件の提出人の意見を聴かなければならないこととされました。

10.審理手続の終結(国税通則法97条の4)

改正行政不服審査法において、審理手続の終結及びその通知についての規定が設けられたことから、国税通則法においても新たに同様の規定が整備されました。

この規定の整備により、担当審判官は、必要な審理を終えたと認めるときには、審理手続を終結するものとされましたが、審理の遅滞を避け迅速な裁決を実現する観点から、答弁書や書類その他の物件等が相当の期間内に提出されないときなどにも、審理手続を終結することができることとされました。

そして、審理手続を終結したときは、速やかに、審理関係人に対し、審理手続を終結した旨を通知するものとされました。

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