【0055】本部照会必須事件

1.裁決書の「原本」をご覧になったことはありますか?

皆様は、裁決書の原本をご覧になったことはおありでしょうか。

裁決書の発送に携わる管理課職員以外には、裁決書の原本を触る機会はほとんどないと思います。

なぜなら、裁決書の原本は各地域の国税不服審判所の管理課が保管しており、審査請求人や原処分庁には、その謄本(全部コピー)が「原本に相違ない」旨の記載及び押印とともに送達されるからです。

原本にしても謄本にしても同様ですが、裁決書は誰の名前で発行されるでしょうか。

「担当審判官」でも「各地域審判所長」でもなく、「国税不服審判所長(本部所長)」の名前で発行されます。

実際には、本部所長が全国の各地域審判所の裁決をレビューして決裁することはしておらず、各地域審判所長に裁決権を委任していますので、本部所長は自身の知らないところで日々ご自身の名前の裁決書が発行されていることになります。

2.なぜ「本部所長名」であるのか

なぜ、裁決書は本部所長名で発行されるのでしょうか。

私は、「行政判断の全国統一性」を意識しているからではないかと考えています。

行政は、同種の事実関係に基づく同種の法令に関する法令解釈や事実認定において、「A審判所」と「B審判所」で異なる判断をすることは基本的には許されません。

この点、裁判所は、1票の格差訴訟がその典型で、各裁判体によって180度異なる判断をすることもありますが、それが控訴・上告されることによって最終的には1つの統一判断が示される仕組みになっているようです。

ジャッジをするとはいえ司法機関ではなく行政機関である国税不服審判所は、この「行政判断の全国統一性」の要請を満たす必要があり、その調整機能は財務省本庁舎4階にある国税不服審判所本部が担います。

具体的には、各地域審判所によって判断が分かれそうな属性の事案については、「本部照会必須事件」に指定して、裁決までに本部の審判官のレビューを受けさせる仕組みを敷設しています。

3.具体的な本部照会必須事件の例

「本部支援事件の処理体制の整備について」という指示文書には、各税目共通項目と各税目別に具体的な本部照会必須事件が掲記されています。

今回は共通項目の例を取り上げますが、例えば、「不当を理由として取消し見込みのもの」があります。

裁判(原処分取消訴訟)では「処分の違法性」が審理対象ですが、国税不服審判所においては、違法性のみならず「処分の不当性」も審理され、それによって(ごく稀ですが)原処分が取消しになる可能性があります。

処分の不当とは、「法令上必ずしも違法ではないが妥当とはいえないもの」と定義されており、敷衍すると「処分権者の裁量権の逸脱」・「濫用に至らない程度の不合理な行使」、たとえば「青色申告の取消し」のような税務署長に裁量が認められている場合のその権利行使などが問題になり得ます。

他にも、「民法等の解釈を行った上で課税関係を検討しなければならない局面において、前提問題についての解釈に多様な見解が存し得るもの」や「法人格否認の法理を用いて判断するもの」も本部照会の対象になります。

こういった事例で各地域審判所まちまちの判断がなされることで、国税不服審判所としての統一見解が不透明になるのは、行政部内の判断機関としては差支えが生ずるのだろうと思います。

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