【0145】国税不服審判所の歴史と使命から導かれる各種の取組

1.国税不服審判所の歴史と特色

国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行う機関として、昭和45年5月1日に設立され、令和2年5月に50周年を迎えました。

国税不服審判所は、昭和24年のシャウプ勧告に基づき、課税処分に対する納税者の不服に対し、税務署等の執行機関とは別の第三者的、客観的立場で公平に審理に当たる機関として、昭和25年に設置された「国税庁協議団」を前身としています。

協議団は、昭和25年から昭和45年までの約20年間にわたり、納税者の正当な権利利益の救済を通じて、申告納税制度の定着とその発展に貢献したというポジティブな意見があった一方で、国税局長の下にある組織であり、以下のネガティブな意見もありました。

・自ら裁決権を有しないため課税部等の意見に押され納税者に納得のいく裁決がされない
・国税庁長官の通達に拘束される

こうした批判的な意見も踏まえ、税制調査会において、税務当局からの独立や、行政の統一性のある運用などの議論を経た上で、昭和43年7月、協議団に代わる新しい審理・裁決機能として、国税不服審判所を設けることを内容とする税制調査会答申が取りまとめられました。

これを受けて、昭和45年の国税通則法の改正により、国税庁の「附属機関」として国税不服審判所が設立され、昭和59年の大蔵省設置法等の改正により、国税庁の「特別の機関」となりました。

「特別の機関」には、様々なものがありますが、国税不服審判所は、検察庁、海難審判所とともに「司法機能と関係する機能若しくは準司法的機能又はこれと関係する機能を有するために、高度の独立性を有している機関」と位置づけられています。

特色の1点目は「裁決権を持つ」ということであり、裁決権を持たなかった協議団との最大の相違点です。
国税不服審判所は裁決権を持つからこそ、独立性を持った第三者的機関として、原処分庁が行った処分について判断をすることができます。

2点目は「裁決は関係行政庁を拘束する行政部内の最終判断である」ということであり、いったん裁決がされると、仮に、原処分庁側がその結論に不満があったとしても、原処分庁において、裁決を不服として、その取消しを求めて裁判所へ出訴することはできません。
その意昧において、裁決は行政部内の最終判断ということができます。

3点目は「国税庁長官の法令解釈に拘束されることなく裁決できる」ということですが、行政判断は最終的には統一的でなければなりません。
つまり、国税庁長官と国税庁の特別の機関の長である国税不服審判所長が異なる判断をしたのでは、納税者がどちらの判断を参考としてよいかわからないことになりますので、国税通則法第99条において、国税不服審判所長が通達と異なる解釈による裁決をするときなどは、あらかじめその意見を国税庁長官に通知しなければならないなどの手続が規定されています。

2.国税不服審判所の使命

上記の国税不服審判所の特色を踏まえ、国税不服審判所の使命は、税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて、「納税者の正当な権利利益の救済を図る」とともに、「税務行政の適正な運営の確保に資すること」にあります。

そして、国税不服審判所では、この使命を果たすべく、人事面・事務運営面で各種の取組を行っています。

3.人事面の取組

国税不服審判所は全国を管轄する1つの組織ですが、審査請求人の利便や、審査請求事件の効率的な処理を行うために、全国に12か所の支部が設置されており、その管轄区域は国税局と同一となっています。

また、地方に在住する審査請求人の便宜のために、現在、5つの支部に合計7つの支所が設置されており、原則として、各支部と支所で、管轄区域内における審査請求の調査・審理が行われていますが、国際事件等の複雑困難な事件については、支所ではなく支部(本所)に移管して行われています。

令和2年7月現在の国税不服審判所の定員は471名、そのうち国税審判官は122名となっており、支部の規模に応じた人員配置がなされています。

このうち、国税不服審判所長は、国税通則法上、財務大臣の承認を得て国税庁長官が任命することとされています。

任命権者は国税庁長官ですが、国税不服審判所の独立性・第三者性に鑑み、大臣の承認という手続が必要とされています。

そして、国税不服審判所発足以来、歴代の国税不服審判所長には裁判官が就任しています。

裁決権を国税庁長官から切り離し、それを司法機関である裁判官から任用した国税不服審判所長に委ねるといった制度的な工夫が、任用面においてなされています。

実際に審査請求の調査・審理を行う支部の首席国税審判官のうち、東京支部の首席国税審判官は検察庁から検察官が、大阪支部の首席国税審判官は裁判所から裁判官が任用されています。

また、審査請求事件の調査・審理を担当する国税審判官(担当審判官)については、弁護士・税理士・公認会計士などの民間専門家が特定任期付職員として登用されており、平成25年以降は、担当審判官の半数程度はこうした民間専門家となっています。

更に、都市支部では、担当審判官以外にも、法令解釈の統一性が確保されているか、文書表現は適正かなどの審査(法規審査)を担当する国税審判官にも裁判官や検察官を任用しています。

このように、国税の運営・慣習にとらわれない外部任用という人事面の取組がされています。

4.事務運営面の取組

適正かつ迅速な事件処理を行うため、3つの基本方針の下での事務運営が行われていますが、その1つ目は「争点主義的運営」ということです。

国税不服審判所は。納税者の権利救済機関であるため、審査請求人が自己の正当な権利利益を安心して主張できるように配意することが要請されています。

そのため、国税不服審判所は、調査・審理を行うに当たって、審査請求人の主張するところが真実であるかどうかを中心に、双方から事実関係や主張を聴き、明らかとなった主張の対立点に主眼を置いた調査・審理を行うこととしています。

もっとも、審査請求人の中には税務や法律の分野にも不慣れな方もいることから、審査請求人の主張と原処分庁の主張とをそのまま対比させることは、権利救済機関の趣旨にもそぐわないものといえます。

この点、国税不服審判所は「職権調査を実施」できることとされていますので、必要があれば、後見的な立場から職権により調査を行い、証拠を収集します。

ただし、国税不服審判所が行う調査の範囲は、争点と争点に関連した事項の範囲にとどめ、争点外事頂については、原則として新たな調査を行われません。

国税不服審判所における調査・審理では、中心となる「担当審判官」1名、合議体の構成員として審理に参加する「参加審判官」2名以上の計3名以上の審判官等で構成される合議体が調査・審理を行い、その結果を踏まえて、審査請求に対する判断として議決を行い、この議決に基づき、国税不服審判所長が裁決を行うこととされています。

これは、複数の審判官等から成る合議体に調査・審理を行わせることによって、慎重かつ適正な判断を担保する一方で、行政判断の統一性という観点から、裁決の局面では統一的な判断ができるようにという工夫の表れであり、この手続により審理の公正さ・裁決の適正さの確保を期しています。

そのため、合議に当たっては、合議体を構成する審判官等は、それぞれ独立した立場で意見を持ち寄り、事実関係の適格な認定、誤りのない法令の解釈・適用に留意しながら、十分に議論を尽くした上で議決を行うこととして、合議の充実が図られています。

国税通則法は、審査請求に対する判断を、理由を付した裁決書によって示すことを求めており、上記の国税不服審判所の使命を果たすためには、個々の審査請求事件に対する裁決書が、審査請求人からも原処分庁からも、また、国民からも、納得の得られるものである必要があります。

そのため、国税不服審判所では、本部・支部間の連携強化や研修の充実など、質の高い簡潔・明瞭な裁決書の作成に向けた様々な取組を行っており、平成29年には、裁判所の判決書における理由の書き方を参考に、従来よりも読みやすい新方式の裁決書が導入されています。

 

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